守れなかったもの
「ミナさん!」
倒れたミナに駆け寄り、その身体を抱き起こすマヤ。
ミナは彼女の目を見て微笑んだ。
「マヤ……」
自分を見つめ涙を流すマヤの頬を、震える指で優しく拭う。
最後の気力で呟いた。
「泣かないで、マヤ……。これは、罰なのかな……」
「罰って、何で、こんな……!」
「あのロボット……。あの人の物じゃなかったの?」
ミナの腕のリングが光る。
通信だ。
〈敵〉の幹部達が映っていた。
「あの男なら、殺したぞ。裏切りが発覚したからな」
「……そん、な」
「残念だったなミナ。まあ今ならあの男の下へ行けるだろう。ロボットは、こちらから操作させてもらった。こうなる事を予期してな」
「わたし……は、泳がされて、いたの……、ね」
「そういう事だ」
マヤが怒りを滲ませ睨んだ。
「ミナさんを、利用するなんて!」
圭一や中島には今まで見せた事のない表情だ。
こんな激しい一面もあるとは。
仲間の事を本当に大切に思っているからこその感情なのだろう。
しかし敵の幹部はそんな事関係無い、と言いたそうな顔で淡々と言う。
「レジスタンスの娘か。ミナの力をわしらの戦力にしようと連れて来たが、最後までお前達から離れるつもりは無かったようだな」
「あなた達は……!」
「あの男と付き合っている気配さえ、巧みに隠しておった。だが、そうそう隠し通せると思うな。男が寝ている間に、カメラを取り付けさせてもらったぞ」
「そんな……」
「本来ならミナの様子を近くで観察する為だったが、そのカメラにもっと面白い物が映っていたのでな。それを利用させてもらったまで。さすがは監視カメラとは違う、身体に埋め込んだ小型カメラよ」
「……くっ」
ミナが唇を噛んだ。
悔しいだろう。
愛する人の死を知らされ、ロボットに撃たれ、敵に反撃も出来ないなんて。
嘲笑うかの様に、さらに話し声は続く。
切ってしまいたい。
しかし向こうから繋げて来た通信を、消す事など不可能な様だ。
「その身体じゃ耳を塞ぐ事も出来んぞ、ミナ。マヤと言ったか。お前達も聞け。ミナの愛した男だがな、人間としての命を奪っただけだ。実際は、ほら、そこに居る」
「え?」
まさか。
マヤ達はロボットを見た。
林の中で戦ったのと同じ、ガイコツ型のロボット。
そんな、そんな事が……。
「散々痛めつけた後、新しい命に改造してやったのだ。どうだ。愛した男に殺される気分は?」
「じゃ、じゃあまさか……。今までのロボットって全部……?」
「察しがいいなマヤ。そうだ。あれはほぼ、戦争で散った者達よ。わしらが科学の力を理由して、新たな身体を与えてやったのだ。どうだ? あれこそわしらが造った、傑作品だ!」
「……っ」
何という衝撃。
胸くそが悪い。
聞いていた圭一と中島も、怒りを覚えるほどだった。
命を、何だと思っているんだ。
これが〈敵〉。
マヤの言っていたレジスタンスの、〈敵〉。
彼女が愛を求めて地球に降りて来た理由が分かった。
こんな人達が居るから、戦争が広がったんだ。
科学の本質を履き違えている。
科学って本来は、みんなの役に立つはずの技術のはずなのに。
戦争の道具に使うなんて。
ミナはもう何も言う事が出来ない。
悲しい目で、ロボットを見つめているだけ。
このロボットが、あの……。
優しい、あの人なの?
涙で目が霞んで来た。
撃たれた傷が痛い。
それ以上に心が。
ミナは自分を抱くマヤの腕をギュッと掴んだ。
マヤがミナを見る。
「ミナさん?」
「マヤ。あの人を……、あの人を解放してあげて。お願……、い。わたしはもう、あなた達に頼る事しか……、出来……、ない」
「ミナさん? ミナさん!」
「ごめん……、ね」
ミナの時が、止まった。
力無く落ちた腕が床を叩く。
マヤの涙が、ミナの閉じた瞼の上を流れた。




