図書館で調べ物
圭一が目覚めた時、マヤもベッドの側の床で体育座りをして、膝に頭を付けて眠っている様な格好をしていた。
母親の姿は無い。
階下に下りて行ったのか。
圭一は体を起こす。
目覚まし時計の時間を見た。
9時を五分ほど過ぎてる。
マヤと約束した時間が8時半だったから、三十分近く眠っていた事になる。
「う~ん」
伸びをするとその声でマヤが頭を上げた。
「圭一、起きたのね。調子はどう?」
「プッ」
自分の体の調子を告げる前に、圭一は彼女の顔を見て吹き出してしまった。
「な、何? いきなり私の顔を見て笑うなんて。圭一、ちょっと失礼よ」
「ごめんごめん。でもマヤ、君も寝てたね。顔に跡がついてるよ」
「え?」
マヤは慌てて手鏡を取り出す。
手首に巻いていたリングの跡がくっきりとついていた。
「もう、やだ~」
愛用のショルダーバッグ。
小さいスプレーを取り出し、顔の跡に向かってシュッ。
あれ? 跡が消えた。
「シミとか余計な物を目立たなくするスプレーよ。お母さんが、よく使ってた」
「そう……。君のお母さんが……。じゃあ、それって」
「ううん。形見じゃないのよ。お母さんのは、焼けて無くなっちゃった。だから、似た様な物を買ったの」
「そうだったの」
「そんな顔しないで。それより、体はどう?」
「体……。あ、熱下がったみたい。ボーッとした感じが無くなったから」
「そう。良かった」
彼女の笑顔に励まされる。
辛い経験をしたからこそ、生まれる笑顔もある。
念のため、圭一は母親が枕元に置いて行った体温計で体温を測った。
ピピッ。
36度6分。
下がってる。
これなら、すぐに出かけられそうだ。
圭一はベッドから下りる。
「圭一、着替えるの?」
「うん」
「じゃあ私は下でおばさまに報告してるわね。ただし」
ドキッ。
マヤの顔が、ぐっと近づいた。
「何かあったら、ドアを開けて叫んでね」
彼女は茶目っ気たっぷりにウインクをすると、鼻歌を歌いながら下に降りて行った。
もう。
熱は下がったのに今のでまた、体が熱くなったよ。
カーテン開けて着替えよう。
日の光を浴びる。
昨日見た天気予報だと、今日の午後から崩れるらしい。
早く図書館に行かないと。
圭一はタンスから服を探す。
お気に入りの白いシャツに青っぽいジーパン。
シャツには英語のロゴが入っているけど読めない。
これでいいか。
あと、一応財布。
ウエストポーチにしまう。
「よし」
マヤが待ってる。
頬をパンパンと叩いて気合いを入れ、階段を下った。
「圭一、熱下がったんだって? 何か食べてく?」
リビングで待っていた母親に聞かれる。
すりおろしリンゴを食べたからいいよ、と圭一が断ると、ホットミルクが入ったカップを差し出した。
「これだけでも飲んで行きなさい。熱いかもしれないけど、栄養も必要よ」
分かった。
圭一は受け取る。
ゆっくり味わいながら飲んだ。
「気を付けて行きなさい。転ばない様にね」
転ぶって……。
熱で倒れない様に、って意味か。
今の所、熱は下がってるんだけどね。
図書館までは自転車で行く事になっている。
圭一や中島が通う学校の先。
交差点、一つ目の信号機の所。
マヤは圭一の母親の自転車を借りて行く。
「サドル、高くない?」
「丁度いいわ。大丈夫」
「マヤの星にも自転車はあるの?」
「ええ。車や電動自転車が主流だけど、健康の為運動したい人には、こんな風に足で漕ぐ自転車が人気だわ。私も、乗った事はある」
「じゃあ行けるね。マヤ」
「ええ。行きましょ」
自転車にまたぎペダルに足を乗せた。
今日の彼女はホットパンツにスニーカー。
毎回、いろんな服装で楽しませてくれる。
お洒落さんだ。
そういえば、海に行った時の靴はサンダルだったな。
物を小さくする道具を持ってたみたいだから、この星に来る為に色々準備して来たのだろうか。
でもさすがに海に行く事は予想してなかったらしくて、水着と一緒にビーチサンダルも買ったって話してた。
いや、待って。
あらかじめたくさん服を用意して来たんじゃなくて、この星で買ったとも考えられるな。
惑星イリアは争いの最中なんだっけ。
う~ん。
「圭一、どうしたの?」
え?
あ、考え事に夢中になってた。
「やっぱり熱ある? あの木の実効くって博士達おっしゃってたのに」
「え? 大丈夫。図書館で君の探し物が見つかるといいなって考えてたんだ」
そう。
今日は図書館に行かないと。
そこでマヤの星の戦争を止める為のヒントを探すんだ。
圭一も自転車にまたがる。
9時開館だから、もう人は行っているはず。
母親が玄関扉の外に立ち、見送ってくれる。
圭一の自転車はたまに彼が乗るけど、マヤに貸した母親の自転車は最近ずっとしまいっぱなしだったから、乗ってくれて嬉しかったのだろう。
タイヤの空気は父親が出社前に見てくれていた。
「マヤちゃん。ヒント、見つかるといいわね」
「はい、おばさま。行って来ます」
「ええ」
手を振る。
圭一達も自転車を漕ぎながら、後ろ手で手を振り返した。
風を切る。
地球では自転車は歩道ではなく道路を走るんだよ、と圭一がマヤに教えてあげた。
「そうなんだ。イリアでは道路とか歩道とかいうのは戦争で半分くらい壊れて無くなっちゃったわ。電車のレーンは何とか、残ってるかな」
「そ、そう……」
「でも車は空を飛べるから、平気よ」
「へ、へえ」
何とかやっている、という事なのだろう。
想像はしてみるけど、実際に圭一は惑星イリアに住んでいるわけではないので、話だけでは実感が湧かない。
ただ言えるのは、マヤが相当苦労して来たんだなって事だけ。
だから、何とかしてあげたい。
図書館に向かう道すがら、圭一はマヤの幸せを願った。




