夏の思い出その2
何か妙な予感がする。
中島の笑顔を見て、圭一は咄嗟にそう思った。
中島は圭一の肩に手をかけようとする。
圭一は後ろに下がった。
「圭一君、何で逃げるんだよ」
「その圭一『君』ってのが怪しいの。普段そんな事言わないのに」
「まあ、そんな事言うなって。とにかく」
圭一を捕まえ、肩に手を置く。
「その場で十回、回ってみようか」
「はあ?」
何だそれ。
何で僕だけ。
「中島、お前は回らなかったのに」
「だから、マヤちゃんを楽しませる為だって。さっきお前も言いかけただろ?」
う~~。
そう言われると返せない。
チラッとマヤを見ると、キラキラと楽しみにしている目で、圭一の動きを待っている。
「ふう」
呼吸を落ち着かせる為に深呼吸。
流木を砂に刺す。
「分かったよ。やるよ」
「おお、やってくれるか。圭一君」
だから、圭一君って……。
一瞬言いかけたけど、言っても仕方ない。
圭一はアイマスクを付け、流木を支えにした。
「よし、回れ」
中島の合図で十回回る。
くるくるくる。
う~、頭。いや目が回る。
「け、圭一?」
フラフラになっている圭一を心配して、マヤが駆けて来ようとする。
中島が止めた。
「大丈夫だよマヤちゃん。圭一はその場を盛り上げようとしてるだけ」
「え? そうなの?」
「そうなの。圭一聞こえるか? 左だ」
「ひだ、り……」
圭一は左に行っているつもりだが、足がもつれ体がいう事を利かない。
アイマスクを付けて視界を遮っているせいか、なおさら目が回っている気がする。
方向はずれ、どんどん右に。
ザブン。
倒れ込む様に砂に手をついた時、波がかかる。
「ひっ」
その感覚に思わず悲鳴が出た。
マヤが駆けて来る。
「け、圭一。もういいわ。目隠し外して」
「ま、マヤ……」
圭一の目元から、アイマスクを外す。
「どうして……」
「楽しむというより、危なっかしくて見ていられなかったの。圭一が怪我をしそうで」
マヤと一緒に圭一の様子を見に来た中島と圭一は、ペコリと彼女に頭を下げた。
「ごめん」
「二人とも謝らないで。私を楽しませる為にしてくれたんでしょ? 笑っては駄目だって思ったけど、最初は面白かったの。圭一がフラフラしながらもスイカに向かう姿が。でも、海の方に向かって行って、ハッとしたの」
「マヤ、ありがとう。でも大丈夫。水に飛び込んだおかげで、目が覚めた」
「そ、そう?」
「じゃあ、最後はマヤちゃんが挑戦してみるかい?」
圭一の父親が起きていた。
「と、父さん!」
「おじさま。はい、やってみたいです」
「いや~。少し寝たらスッキリしたよ。賑やかな子供達の声が聞こえたしね」
「そ、そうなんだ」
「うん。圭一、マヤちゃんに道具を渡して」
圭一はマヤにアイマスクと流木を渡す。
「スタート地点に立って、アイマスクを付けてね。圭一みたいに回らなくていいから」
「と、父さん。見てたの?」
父親はその時の事を思い出した様にフッと笑った。
「ああ。僕も母さんも爆笑だったよ」
「……い、意地悪」
圭一はふてくされる。
「まあまあ圭一。私頑張ってスイカを割ってみるから、機嫌直して」
マヤが頬を膨らませた圭一を慰めた。
「じゃあマヤちゃん。やってみようか。僕が方向を教えるよ」
「おじさまが教えて下さるんですか? よ~し、頑張っちゃうから」
「その意気だよ」
マヤはスタート地点に立つ。
圭一の母親がアイマスクを装着させてくれた。
「ありがとうございます、おばさま」
「行ってらっしゃい。大丈夫よ。あなたなら」
「はい!」
背中を押される。
みんなが応援してくれてるんだ。
マヤは圭一の父親の声を頼りに、スイカの方に近づいて行く。
「いいよマヤちゃん、その調子。あ、少し行き過ぎたかな? 右に戻って。うん、そのまま真っ直ぐ進んで」
「マヤちゃんがんばれー!」
「マヤ、一歩左足出して。そこ。振りかぶって」
かツン。
マヤが頭の上から振り下ろした流木。
見事にスイカの真ん中を捉えていた。
アイマスクを外す。
喜びの表情で圭一達が近づいて来た。
「やったわね、マヤちゃん」
「はいおばさま。最後に圭一の声が聞こえたので」
「最後はやっぱり圭一なのね。それじゃ、ハイタッチしましょう」
「ハイタッチ?」
「地球では、手を上げて軽く手のひらを合わせて喜びを分かち合う事を、『ハイタッチ』って言うのよ」
「そうなんですね。こういう事ですか?」
パチン。
圭一の母親と両手の手のひらを合わせる。
「そういう事。弾く様にね。あら? みんな待ってるわ」
「フフッ。はい!」
圭一、彼の父親、中島とも手のひらを合わせる。
「ありがとうございます! 最高の夏の思い出になりました!」
「それじゃ、このスイカをみんなで頂きましょう。マヤちゃんの星の味と違うかもしれないけれど」
「はい!」
弾ける様なマヤの笑顔が満ち溢れた。
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