夏の思い出
潮の香りの砂浜。
お弁当を食べ終わった圭一達は、マットの上で少し横になっていた。
マヤと圭一の母親はパラソルの下で涼んでいる。
お腹一杯になったら何だか、眠くなってきた。
「ふわあ」
圭一の父親があくびをする。
隣の圭一が聞いた。
「父さん、眠いの?」
「ああ。休日でここまで運転して来たからね。仕事の疲れでも出たのかな」
「大丈夫?」
「まあ、眠いのは眠いよ」
「済みません、おじさま」
会話を聞いていたマヤがペコリと頭を下げた。
「君が謝る事じゃないよ。海に行こうって誘ったのは僕だからね。その為に昨日仕事を早く終わらせて来たんだ。まあ、少し休めば大丈夫かな」
「砂が暖かいからなおさらじゃない? あなた、少し寝ますか?」
「そうしようかな」
「それじゃおじさま、こちらへどうぞ」
「悪いね。マヤちゃん」
「いいえ、こちらこそ」
マヤが圭一の隣に移り、父親がパラソルの下に移動する。
隣で父親が寝た事を確認した母親が言った。
「圭一。わたしが朝持って来た袋があるでしょ?」
「うん。これだね。あ、スイカが入ってる」
「ええ。マヤちゃんに、スイカ割りを体験してもらいたいと思って」
マヤが中を覗く。
「わあ、スイカ。地球のスイカって、大きいのね」
「イリアにも、スイカがあるんだ」
「ええ、あるわ。でもイリアのスイカは、ここまで大きくないかな。せいぜい、トマトくらい」
「へえ、トマト。地球にも、そのくらいのスイカがあるかな。小玉スイカっていうんだ」
「そうなんだ。素敵。でもイリアのスイカは、それ以上大きくならないの」
「へえ~」
似てるのに、違う。
不思議な感覚。
「じゃあ俺、棒を探して来るよ」
中島が立った。
やがてちょうどいい長さの流木を抱えて戻って来る。
「私、スイカ割りって初めてなの。楽しみだわ、圭一」
「そうか。イリアのスイカは割らないんだ」
「ええ。割る必要がないの。切ってそのまま食べるだけ。皮ごといけちゃうから」
「え?」
圭一と中島は目を見開いて驚く。
「どうしたの? もしかして地球産のスイカは、皮が食べれないの?」
「そうなんだ。地球のスイカは皮が硬くて。その……、マヤ。実はどうなってるの?」
「実? 実は甘いわよ。赤くて」
「種は?」
「種? 種って?」
不思議そうに、覗き込む様な目。
聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた。
「あ、種は入っていないんだね。地球のスイカは、実の中に黒い種がブツブツと入っているから」
「そうなの? 面白いのね。私達の星では、実の中に種は入っていないわ。植える時に種を撒いて栽培するけどね」
「へえ。栽培方法は同じなんだ」
「ええ中島君。ところで、その棒をどう使うの?」
「え? んと、まずスイカを砂の上に置いて……」
中島はマヤに、スイカ割りの方法を教えた。
「ふ~ん。目隠しをして、指示に従ってスイカを割るのね。面白そう。早速、やってみたいわ」
「ちょっと待ってマヤ。えっと、目隠しは……」
「圭一、これ」
母親が圭一に渡したのは、アイマスクだった。
「本当は休む時用に持って来たんだけどね、この人、もう寝ちゃったから」
隣で寝息を立てて寝ている父親を見た。
「予備はあるから、それ使いなさい。わたしは、ここで見てるわ」
「えっ? 母さん参加しないの?」
「ええ。あなた達見てる方が楽しいから。じゃ、頑張ってね」
「う、うん」
圭一は中島とマヤの方に。
じゃんけんで順番を決め、最初は中島になった。
「中島君、頑張って」
「指示は僕が出すよ。アイマスクをして、そのまま真っ直ぐ」
中島は右の方向に曲がって行く。
「ちょっ中島、そっちは海だって。もう少し左だよ」
「左? こっちか?」
「そうそう近づいて来た。そのままもう少し左に横歩き。って、行き過ぎ。一歩右に戻って」
「はいはい」
中島は大股を広げて右に戻る。
「そんな大股広げなくたって……。仕方ないか。そのまま前に一歩。構えて」
「ん、ここか? それ!」
「あ、待って」
中島は流木を振り下ろす。
スイカの手前の砂に落ちた。
アイマスクを外す。
「圭一~。当たらなかったぞ~」
「中島のタイミングが早すぎたの。一歩前進って言ったのに」
「ん~。そうだったか~?」
何かわざとらしい。
圭一はハッと彼の意図を察した。
中島に近づき小声で確かめる。
「中島、お前まさか……」
「ん? さあな。圭一早く次行けよ」
肩を押される。
マヤがどうしたのって顔をしている。
「圭一? 中島君?」
「ま、マヤちゃん。どうだった? 俺のスイカ割り」
「うん。面白かったよ! 中島君があっち行ったりこっち行ったり」
マヤの目はよほど楽しい物を見たという感じで、キラキラ輝いている。
「そう? マヤちゃんに喜んでもらえて最高だよ! 圭一の指示のせいだね」
「ちょっと、僕のせい?」
「次は圭一が手本を見せるって。な?」
と言って、圭一に流木を渡す。
「お前が俺に指示を出してくれたから、今度は俺が指示を出すな。マヤちゃん、それでいい?」
「ええ。圭一がどんな動きを見せてくれるのか、楽しみだわ」
「んじゃ」
ニヤリと笑って、スタート地点の圭一に言った。




