表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い稲妻  作者: 北村美琴
第1部地球編
21/143

波間にて

 カーラジオが流れている。

 窓からの風を受け、車は順調に進んでいた。

 圭一や中島の住んでいる近くに海は無い。

 海は車で約一時間かかる所にある。

 休みなので渋滞に巻き込まれない様にと早めに出て来たが、目的の海水浴場に近づくにつれ、人が混み始めて来た。


「おっと、混んできたかな?」

「大丈夫よあなた。まだ駐車場は空いているわ」


 父親と母親の会話。

 母親の言葉通り、まだ車を停められるスペースが、六、七台分空いている。

 砂浜へと下りて行く階段の近くに、運良く車を停車出来た。

 子供達は降りる。

 ビーチサンダルを履いて。

 父親がトランクを開けた。


「圭一、これを持って。マヤちゃんは悪いけど、これを運んでくれるかな?」


 圭一が持たされたのは、砂浜に敷くマット。

 父親がパラソルを持つ。

 マヤはお弁当が入った袋を運ぶ事になった。


「あの、俺も手伝います」

「そうかい? ありがとね中島君。それじゃあこれを頼もうかな。大丈夫かい?」

「はい。大丈夫です」


 中島はジュースのペットボトルが入ったナイロン袋を持ち上げる。


「あら、わたしも運ぶわよ」


 圭一の母親は何かが入った大きめのエコバックを手にした。


「母さん、それは?」

「これ? これは後でのお楽しみ」

「ふ~ん」


 何だか分からないけど、そう言うのなら。

 階段は狭い。

 圭一達は気を付けて下りて行った。

 白い砂浜はゴミもほとんど無く綺麗だ。

 たまに流木が落ちている。

 人々の間を抜け、ここだというスペースを見つけた。


「父さん。ここならマットを広げられそうだよ」

「よし圭一、広げてくれ。僕はパラソルを立てよう」

「圭一。石か何かで飛ばされない様にした方がいいかもしれないぜ。あ、あそこに石発見」


 圭一と父親、中島が動いてくれる。

 マヤは男達の働きを、感動した様に見つめていた。


「何か慣れていますねおばさま。あの大きい傘、あ、日除けにするんですね」

「去年も来たのよ。わたしはその時、泳がなかったけど。今日は、マヤちゃんが居るから特別ね。中島君と来るのは久しぶりかな。中島君も中島君で、ご家族と出かけたりしてたから」

「そうなんですね。あの、圭一と中島君って、昔からの知り合いだったりするんですか?」

「違うのよ。家は近所でそう見えるんだけどね。圭一が小学校五年生の時に、中島君家族が引っ越して来たの。中学に入って、初めて同じクラスになったのよ」

「そうなんだよ。俺引っ越して来たの。俺の父さん絵描きでしょ? 前の家は古いアパートだったの。狭かったし。それで父さんの絵が人気が出てきてお金が入ってきた頃だったんで、新しい家に引っ越すかって話になったの。それでたまたま見つけたのがあの売り家だったって訳」

「そうだったのね」


 マットを敷き終えた中島が話に入ってきた。


「でも中島君。それまで違う学校に通ってたんでしょ? 友達と別れるの、寂しくなかった?」

「ん~。俺、あの学校じゃ友達少なかったし。新しい学校で仲良くなれればいいやって。とにかく、あの狭い家から出たかった。それに父さんももっといい環境で絵を描きたかったと思うよ」

「で、こっちに?」

「うん。引っ越し当日、家族で近所に挨拶したんだ。その時、初めて圭一に会って、こいつ気が合いそうだなって」

「僕もだよ。中島その時、僕が好きなキャラクターの帽子かぶってたよね。クラスは別だったけど、帰り道同じだったから、下駄箱で声かけて、一緒に帰るうちに……」

「仲良くなってた」


 圭一も話の輪の中に入る。


「でもよ圭一。お前いつまでも俺の呼び方が『中島』なんだよな。そろそろ名前で呼んで欲しいよ」

「はは、ごめんごめん。でも、ずっとそういう呼び方してたら、そっちの方が言いやすくなっちゃって」

「ま、いいけどね」


 そこで圭一の父親がパンパンと手を叩く。


「よし、パラソルが立ったよ。マヤちゃん、入るかい?」

「はい、おじさま」

「って、違うでしょマヤ。せっかく海に来たんだし」


 圭一の何かを期待している様な言葉に、マヤは、


「あら。圭一、見たいの?」


 と、焦らす様な声をかける。


「え? 見たいって……。僕は別に……」

「あら赤くなっちゃって。ほら」


 スカートをギリギリまでまくり上げる。

 圭一と中島の視線が、太ももの辺りを泳いだ。


「ま、マヤ、それは……」

「フフッ。はい」


 両手でスカートの裾を掴み、めくった。

 そこに履いていたのは、下着ではなく、


「み、水着……」

「そう。水着。せっかく海に来たんだもの。おばさまが選んでくれたのよ。これ」


 ワンピースを脱ぐ。

 白い肌に映えるオレンジのビキニだ。

 彼女は最初から水着を服の下に着ていた。


「ビキニなんて初めてだけど、どうかな、これ?」

「う、うん。似合ってるよ」

「俺もそう思う。マヤちゃん、可愛い」

「あらら圭一、照れちゃって」


 母親がちゃかした。


「ちょっと母さん、止めてよ。って、あ」


 父親と母親も、もう水着姿になっている。

 父親は紺、母親は紫に黄色のワンポイントが入った水着だ。


「どうした圭一。マヤちゃんに見とれていて、父さん達が水着になっていたのに気づかなかったみたいだな」

「母さんの水着もイケてるでしょ? ビキニじゃないけど、わたしも頑張ったのよ」

「そ、そうだね」


 母さんって。

 こんなに胸、大きかったっけ。

 圭一はちょっと照れた。


「よし。マヤちゃんとおばさんの水着姿を拝ませてもらったし、俺達も泳ぐか。圭一」


 中島に肩を叩かれる。

 結局、圭一と中島も水着を最初から着用していた。

 ま、着いてから着替えるより、こっちの方が早いんだけどね。

 それにしても、


(マヤの見せ方、あれ、びっくりしたな)


 まだ胸がドキドキしてる。

 自分達と同じように水着を着てるかも、と思ってはいたけど、やっぱり違うかも、もしかしてほんとに下着? と思ってた自分もいて、正直恥ずかしかった。

 そんな彼をマヤが呼ぶ。


「圭一。先に入ってるよ」


 彼女は波打ち際へ。


「あ、待って」


 圭一は急いで彼女を追いかけた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ