お楽しみの海へ
公園の入り口に着くと、もう圭一の父親の車が停まっていて、後ろの窓から中島が手を出して呼んでいた。
圭一の母親は助手席に、父親は運転席で笑っている。
「おはよう中島君。あれ? 圭一は?」
「おはようマヤちゃん。圭一は車の外で待ってたんだけどさ、さっきここでサッカーしてた子供達のボールが道路の向こうまで飛んじゃって、今一緒に探しに行ってるの」
「そうなの? サッカーって確か、ボールを蹴って遊ぶ球技だよね。私も、探しに行かなくていいのかな?」
「あ、いいと思うよ。そんなに勢いよく蹴った訳ではないだろうし。ほら、戻って来た」
車の後ろの道路から、数人の小学生くらいの男の子と圭一が走って来る。
「お待たせ中島、ボール見つかったよ。この道路少し坂になってるから、向こうの方の側溝に挟まってた」
「水の中に?」
「水の中じゃなく、ちょうど蓋で止まってたという感じ。あ、マヤ……」
圭一が白いワンピース姿のマヤに目を向ける。
「おはよう圭一。大変だったね」
「おはようマヤ。これくらい大したことないよ。それにしても……」
晴れた天気と相まって、白いワンピースが眩しい。
「ね、ちょっと」
男の子の一人が圭一の袖を引っ張る。
「お兄ちゃん、ボール返して」
「あ、ごめん」
マヤに見とれていた圭一は、抱えていたサッカーボールを返す。
小学生達は、「ありがとうございました」と叫びながら次々公園へ。
助手席から母親が言う。
「圭一、彼女に見とれるのも分かるけど、車に乗ったら? 汗かいて疲れてるでしょ。トランクにジュースあるわよ。マヤちゃんもどうぞ」
「ありがとうございます」
「中島君も飲んでね」
「はい、おばさん」
後ろのドアを開け、圭一達が座る。
隣町からの帰りの時と同じで、中島が左、マヤが真ん中、圭一が右端だ。
「中島君、その……」
席についた途端、マヤがもじもじしながら中島に聞いてくる。
中島は何の事だか、ピンと閃いた。
「ああ、腕の怪我なら大丈夫。もう火傷の跡も残ってないし、すっかり治ったよ。さすが、惑星イリアの技術力」
「そう。良かった。イリアの仲間にも伝えておくね。中島君が誉めてくれたって」
「うん」
マヤは安心して胸を撫で下ろした。
内心は心配だったのだ。
中島君の怪我が本当に回復するのかって。
仲間達の科学力を信じて無い訳じゃない。
けどもしもって場合もある。
その人の体質によって効果はまちまちだから。
(一週間で……。中島君には、薬が合っていたのね。地球の人にも効くんだわ)
改めて、自分の星の技術を思う。
戦争の為の武器は嫌い。
けど、命の為に役に立つ物ならば。
(大切に、しなくちゃね)
初めて圭一と会った時に見せた、急成長する土の技術もそうだ。
ロボットとの戦いで傷ついたあの丘に立っていた木も、塗り薬で治して来た。
何かを大切に思う心は、地球人も宇宙人も変わらない。
これからその大切な心、みんなの生命力をちょっとだけ分けてもらいに海に行く。
感謝します。
無意識のうちにマヤは、祈る様な格好になっていた。
「どうしたのマヤ。緊張してるの?」
「え? ううん、何でもない」
圭一に話しかけられ、マヤは首を振る。
「リラックスして、ジュースでも飲むといいよ。心配する事無いから」
運転席からも、彼の父親に声をかけられた。
そうだ。
せっかく誘ってもらったんだし、今はこの時を楽しもう。
マヤは言った。
「よ~し、今日は泳ぐわよ~」
ははは、その意気。
一気に車の中が賑やかになった。




