少女との出会い
「はあ、はあ……」
夕日が照らす道を走って行く圭一。
彼の予想通り、外では大人も子供も大騒ぎをしていた。
道路で泣き出す小さな子をあやすお母さん。
ストップした車からは運転手達が、何処だ何があったと顔を窓から出して騒いでいる。
そんな景色を横目で見ながらも、圭一は足を止めない。
彼は時折、驚くべき勘の鋭さを発揮し、周囲の大人達を驚嘆させていた。
実際この時だって、胸がドキドキしている。
ワクワクが抑え切れない。
もしかしたら自分の運命を変える様な出来事があるかもしれない。
そんな予感さえしている。
大袈裟かもしれないが。
「駄目だ、それ以上行っては!」
急に腕を掴まれ、引っ張られた。
振り向くと、隣の家のおじさんが怒った様な顔で見つめている。
「何処へ行くつもりだ? 圭一君。また好奇心で調べに行くつもりだろうが、何が起きたか分からない。危険が多すぎる。ここは家に帰りなさい」
「で、でも……」
「君の勘が鋭いのは分かる。けど君のお父さんやお母さんも心配するだろう。まだ子供なんだから」
まだ子供。
まあ中学一年生、十三才の少年だから、そう言われるのも仕方ない。
が、何か納得出来ない。
大人はすぐそうやって、話を反らそうとする。
普段は素直な少年でも、この時ばかりは物分かりよく出来なかった。
「ゴメン、おじさん」
彼の腕をすり抜け、圭一は走る。
「圭一君!」
「すぐ戻って来るから、心配しないで」
振り返る事は無い。
(場所は分かってる。多分あそこだ)
人通りの多い住宅街を抜けると、緑に囲まれた森の様な公園がある。
そこはよく学校帰りの生徒達やカップルなどに利用されていた。
無論圭一やその友達も例外じゃない。
圭一はもくもくと煙が上がるその場所へと近づいて行った。
「けほっ」
誰も居ない。
避難しているのか、あえて近づかないのか。
穴が空いている。
その穴の中心に、女の子が倒れていた。
白いワンピースに長い髪。
右手の甲に傷を負っているのか、血がにじんでいるのが見えた。
「……っ」
気絶している様だ。
圭一は少し戸惑う。
が、女の子を放っておく訳にもいかない。
ポケットからハンカチを取り出し、傷口にそっと巻いてあげた。
なかなか可愛い顔をしている。
圭一の胸はキュンと一瞬ざわめく。
「う、うん」
気が付いた様だ。
覗き込む圭一の顔を少女はおっかなびっくり見つめている。
圭一はこれ以上驚かせない様に、落ち着いた口調で尋ねた。
「大丈夫? 君は一体誰? どうしてこんな所に居るの?」
少女は黙ったまま。
駄目か、と圭一が表情を曇らせた時、
「私は……」
「ん?」
少女が口走った。
「私はマヤ。銀河系の彼方にある一つの星から、訳あって地球を訪ねて来たの」
「え?」
圭一の頭は真っ白。
この子、何を言っているの?
「え、え~っと。ちょっと言ってる事が分からないや。今ここら辺ではちょっとした騒ぎがあって。何かでっかい音がして、何か落ちて来たんじゃないかって。君、もしかして巻き込まれた?」
「それは私の乗って来た宇宙船の音ね。この穴は衝突した跡だわ。ごめんなさいね」
「え、え?」
ますます混乱する。
だって見た目は全然、地球人と変わらない普通の少女だし。
信じられない。
考えれば考えるほど、分からなくなる。
う、宇宙人なんて……。
「あの……」
マヤはそんな圭一を、不思議な顔で見つめていた。
「ちょっといいかしら? あなたの名前を聞かせてもらっても」
「へ? な、名前? 横目圭一ですっ!」
少女からの質問に、慌てて答える。
答えた後、恥ずかしくなった。
(な、何で僕、こんなに慌ててるんだ)
圭一のその様子がおかしかったのか、マヤが吹き出す。
「ありがとう圭一。怪我も手当てしてくれたのね」
なんて可愛い笑顔。
圭一は思わず手を握る。
「え、えっと……。き、君の話をもっと聞きたいな。ぼ、僕の家に……」
「え?」
マヤはびっくりする。
が、すぐに笑顔で、
「いいわよ」
って返した。
外はもう夕日が落ちかけ、暗がりが広がりつつある。
風が吹いて来た。
薄着だったマヤがビクッと震える。
このままじゃ風邪を引いてしまうかも。
圭一は彼女の手を引き、家への道を戻った。