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青い稲妻  作者: 北村美琴
第1部地球編
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地球の愛

 これからマヤが話す事。

 それが圭一とマヤ、二人の運命を近づける事になる。


「圭一。私が遠い宇宙の彼方、惑星イリアから来たって事は、前に話したよね?」

「うん。それで僕らは、あの場所で出会ったんだ」

「そう。そしてここからが肝心な事。私、あなたに初めて会った日に、これからもお世話になるかも、って言ったと思う。あれは、あなたなら、惑星イリアの危機を救ってくれるかもしれないと思ったからなの」

「どういう事だい? マヤちゃん」

「はい、おじさま。実は私の故郷惑星イリアは今、滅びの道を歩んでいるのです。イリアは科学が発達した星でした。しかし、その為に人々は科学の力に頼る様になってしまい、いつの間にか優しさを忘れ、愛を忘れ、争いの星と化してしまいました。戦争の兵器の力で、美しかったイリアの自然も失い、私の家族や、友人達も命を奪われました。両親は戦争を止める為レジスタンスを結成したのですが、敵の手に落ち、残酷な仕打ちを受けて……」


 マヤは昔の事を思い出したかの様に、一筋の涙を流す。

 あまりの切ない話に、圭一達はみな、呆然としていた。


「けれど、私達は諦めませんでした。両親の意志を継ぎ、私は仲間達と共に、戦争を止める事を誓ったのです。その為にはどうすればいいのか。地球に行って、本当の愛や、強さを探して来る事。そして私は使者として選ばれ、地球に降りて来たのです」

「……そうか。マヤちゃん。君がそんな辛い事を経験していたとは、想像も付かなかったよ。よく頑張ったね。それで、何故戦争を止める為に、地球が選ばれたのかな?」

「青い色というのは、私達にとって希望の色なのです。ここには、希望がたくさんあります。青い空に青い海。何より、人々の心が綺麗です。優しくて、温かくて。私は、愛を探す為に、地球ここに来たのです」

「そういう事だったのか……。それで、この丘で僕達に襲いかかったあのロボットは、敵の刺客だった、という訳だね」

「はい」


 これで、マヤが地球を訪れた意味が分かった。

 少女は強い。

 選ばれたとはいえ、イリアの命運を背負って、たった一人で。

 圭一の母親も、中島も、もらい泣きしていた。


「みなさん、教えて下さい」


 絞り出す様な声で、マヤが問いかける。


「地球の愛って、どんな物ですか?」

「地球の愛、ね」


 圭一、両親、中島が顔を見合せる。

 答えを絞れずに、迷っている様だ。

 圭一がふと、手を上げた。


「父さん、母さん、中島。これはあくまで僕としての考えだけど、聞いてもらっていいかな?」


 三人は一瞬、ん? となったけど、


「圭一。お前がそう決めたのなら、その意見はマヤちゃん本人に聞いてもらうといい」

「母さんも、あなたの気持ちを尊重するわ」

「俺も……、それでいい」


 と、最終的に言ってくれた。

 マヤが圭一の顔を見ている。

 答えをくれるのを、待っているかの様だ。

 圭一はフッと優しい顔になり、囁く様に言った。


「マヤ、外の鳥の鳴き声が聞こえる?」

「え?」


 先ほどまでロボットと格闘していた時には気づかなかった。

 だが確かに、外から鳥の声がする。


「朝の雨が止んで、晴れ間が広がってきたから、林の木に鳥が止まりに来たんだよ。ロボットが居た時にはうるさかったんで逃げていたけど、今なら静かになったから」

「そう、なのね」

「そう。こんな風に、ここには色んな生き物が居る。その一つ一つの命が、共存してるんだ」

「共存……」

「お互い助け合って過ごしてる。雨が降れば川になり、森が生まれる。その森を求めて、動物達が集まる。そして、それと同じように素晴らしいのは、自然の姿だよ」

「自然の、姿?」

「うん。二人で虹を見たでしょ? あの時君は、綺麗だって言った。僕もそう思う。どんなメカだって、自然の織り成す美しいいろには、敵わないと思うよ」

「……」


 圭一の囁く声に、マヤは無言で、ただ聞き入っていた。

 彼の言っている事が、合っているのかもしれない。

 私達は、今まで、過ちを繰り返して来た。

 人間は、自分の才能を、ただ自分だけの力だと思い込んじゃいけない。

 人は、何かと助け合って生きて来た。

 決して一人じゃなく、大切な何かと一緒に、季節を越えて来た。


(圭一……)


 彼がイリアを救う勇者かもしれないという思いに、今はっきり確信を持った。

 それほど、彼の言う事には真実味がある。

 いつの間にか、私達も敵を倒す事に囚われ、大事な事を忘れていたのかも。


「マヤ……」


 圭一が真剣な眼差しを向ける。

 マヤの胸が高鳴る。


「け、圭一……」

「マヤ。僕が初めて君を見た時、何を思ったか分かる? 怯えた目の君を見て、僕が守らなきゃ、助けなきゃって思ったんだよ。初めはこの感情が何だか分からなかった。胸がドキドキするのにモヤモヤして、苦しくなるくらい。けど、君と過ごすうちに気づいた。これが人を好きになる事なんだって。まだ恋なのか愛なのか分からないけど、とにかく」

「……」

「受け入れる事だと思う。そして好きになる事だと思う。これが僕の出した答え」

「圭一……!」


 マヤは感激した様な、尊敬した様な目で見つめる。


「ありがとう圭一。探していた物が見つかった気がする」

「いやあ、そんな」

「じゃあ、ちょっとエネルギーを」

「え?」


 マヤが寝室から持って来たのは、小型の水晶玉。


「この玉にね、地球のエネルギー、みんなの生命力をね、ちょっとづつ分けてもらうの」

「そのエネルギーで、惑星イリアが?」

「ええ。イリアの自然が再生するかも、って聞いてる。私の思いに思いに共感してくれる優しいみんな。イリアが再生するには、優しさが無いと駄目なの。みんなのエネルギーを、ほんの僅かでもいいから分けて!」


 マヤが玉を掲げる。

 窓の外の木々達から、空を飛んでいる鳥達から、ドームの下の大地から、半透明のオーブみたいな物がフワフワ集まって来て、玉の中に消えた。

 もちろん圭一達の体からも。

 玉は白い光に包まれる。


「ありがとうみんな。でも、まだ足りないわ。もっと何処かで集めなきゃ」

「それなら、僕が今度の休みに、君を海に連れて行ってあげるよ。海にも生物がたくさん居るし、人も集まるだろうから」

「おじさま、本当ですか?」

「ほんとほんと。それにその頃なら、中島君の傷も治るだろうから」


 と言って中島の方を振り向く。


「そう。マヤちゃんにもらった薬で、ほら、ほぼ治って来たし。俺も絶対行くから」


 中島本人の言葉通り、彼の腕の傷は腫れがすっかり引いて、色も黒から元の肌色に戻っていた。


「良かった」


 マヤはホッとする。


「じゃあ、海で佐登子さん自慢の水着を見せてあげるわ。マヤちゃんも泳ぐでしょ?」

「は、はい!」

「え~、母さんの水着~?」 

「何よ圭一その顔は? まだまだイケてるのよ」


 ま、イケてるかどうかは、実際に見てみないと。


「それじゃ」


 圭一が手を差し出す。


「帰ろ、マヤ。僕達の町に」

「うん」


 マヤは笑って、圭一の手を握った。





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