ロボット撃退
「中島、おい、中島っ!」
「中島君!」
圭一は倒れた中島を抱き起こす。
圭一の両親も心配そうに覗き込んだ。
撃たれた左肩から腕の上部にかけて、黒く腫れ上がっていた。
苦しそうにうめき声を上げる。
額からは大量の汗。
熱が出て来たのか。
「そ、そんな……」
マヤは跨いでいたロボットから離れ、膝を落とし泣き崩れる。
自分のせいで、地球のお友達を、傷つけてしまった。
後悔の涙。
(私が、地球なんかに来なければ……)
誰も傷つける事は無かったかもしれない。
圭一も中島君も何も知らず、幸せな時間を過ごしていたかもしれない。
私が、壊してしまった。
「ひっ、く」
止まらない。
泣いてどうにかなる訳ではないけど、それでも、ごめんなさいしか言えない。
転ばせたロボットは、マヤが離れた事で起き出していた。
ギ-――。
狙いを定める。
後ろ姿のマヤに。
中島が、薄目を開けて言った。
「マヤ……、ちゃん……。逃げ、て……」
ロボットの指先。
ビームが発射された。
「……!」
圭一の父親が動く。
マヤを伏せさせ、ビームをギリギリ避けた。
そして、
トン。
傘の先端で、ロボットの胸を突く。
ロボットは停止、バラバラと崩れた。
「お、おじさま……」
「マヤちゃん」
父親は、座り込んだままのマヤに、少し厳しい目を向けた。
「君、わざとビームに当たろうとしただろう?」
「……う」
「中島君に怪我をさせた事を、悔やんで、だね」
「……はい」
マヤの体の上で、ため息が聞こえる。
「……駄目だよ。中島君が言ってくれただろう? 逃げて、って。その言葉、聞こえていたよね?」
「はい」
「なら逃げるべきだったんだよ。じゃないと、中島君はもっと傷つく」
「……!!」
「中島君だけじゃない。圭一や僕達もだ。誰も、君がビームで貫かれる所を、見たくない」
「おじさま……」
「それに、君は責任を果たすべきだ。君が何の為にこの地球に来て、何をするつもりだったのかを。そして、君が言う敵って何なのかを。それをきちんと説明する事が、君の責任だ。それを聞く前に、居なくなってしまっては困る」
そうだ。
厳しい言い方だけど、父親の言っている事は正しい。
巻き込んでしまった以上、責任を果たさないと。
泣いている場合じゃない。
マヤは頬の涙を拭いて立ち上がる。
「分かりました。とりあえず私のドームに。中島君の手当てをして、それから、私の話を聞いて下さい」
「分かったよ」
圭一と母親も頷く。
中島は、圭一と父親の肩にもたれかかる様にして運ばれて行った。
丸いドームの中。
中島を横に寝かせる。
マヤが、飲み薬を持って来た。
牛乳瓶より少し小さめの瓶に、赤紫色の液体が入っている。
「これを飲んで中島君。私達の仲間の研究者が作った薬よ。これで症状は楽になるはずだわ」
濡れタオルで、彼の額の熱を冷やしていた圭一の母親が、中島の口元に薬の瓶を近づけ、飲ませる。
中島はむせた。
「ケホッ……。コホッ……。苦っ」
「ごめんなさい。でも効果はあるはずなの。少しずつだけど、怪我も痛みも治ってくるはずよ」
マヤの言う通り、中島の腕の腫れが治まってきている様な気がする。
瓶の液体を飲み終え、中島は再び横になる。
全員、中島の側の床に座った。
紅茶の香りがする。
その紅茶を圭一達に出しながら、マヤは今回の事を詫びる。
「あの、今回は皆さんに、色々迷惑をかけてしまってごめんなさい。そして、こんなところまで、私を探しに来て下さって、ありがとうございます」
「気にする事は無いよマヤちゃん。僕達も君の事が好きだから」
「おじさま……」
「それじゃあまず、君が突然居なくなった理由からだ」
「はい。圭一……、君にも話したんですけど……」
マヤは自身が町中で目撃した事件の事。その事件が解決した事を圭一から聞いてホッとした事などを告げた。
「まあ。そんな事件を目撃していたのね。怖かったでしょう? わたし達、そんなあなたの気持ちも知らずに……」
「大丈夫ですおばさま。圭一が来てくれて、私、凄く心強くなりました」
「じゃあ教えてくれるマヤ? 君が何の為に地球に来たかを」
「ええ」
圭一の真剣な問いに、マヤは強く頷いた。