力を借りて
「な、何で父さん達が……?」
圭一は突然の事に驚いて、その場から動けなくなってしまった。
体が硬直している様な状態だ。
両親が駆け付けてくれるなんて、予想もしていなかった事だろう。
だって今朝、玄関で見送ってくれたのは、間違いなく彼の母親なんだから。
「いや。中島君から電話が来て、彼もお前とマヤちゃんの下に行きたいと言うから、じゃあ僕達と一緒に車で向かおうかという事になったんだ」
「でも、父さん今日久々の休みだから、家でゆっくり母さんと過ごすって」
「そう思ったんだけど、僕も母さんもお前達の事が心配でね。だから、やっぱりみんなで迎えに行こうと。でもまさか、こんな事になっているとは驚きだ」
「ごめん、心配かけて」
「お前が謝る事じゃないだろ? いや~、それにしても父さん興奮するな~。宇宙人のロボットとは。カメラ持ってくれば良かった」
「まあ、わたしもよ」
ガクッ。
興奮って。
二人のオカルト好きの血が騒ぐのだろう。
だけど今は、そんな事を話している場合じゃない。
「と、父さん! ロボットが!」
さっき母親がハンドバッグで、ガツンと頭に一発入れてあげたロボット。
膝を落としたと思ったら、
「動き始めてる!」
すかさず父親が持っていた傘で胸の核を攻撃。
のはずだった。
「空振り!?」
ロボットに傘を避けられてしまう。
そしてロボットは右手を上げた。
指先が光る。
「父さん!」
圭一がロボットの脇腹に体当たりした。
ビームの軌道がずれる。
父親と母親に怪我は無かった。
「良かった……」
ロボットはマヤによって止めを刺される。
あと、残り二体。
マヤは枝を、中島は鉛筆を、圭一と父親は傘を、そして母親はペットボトルを構えた。
え? ペットボトル?
「ちょ、ちょっと母さん。いくら何でもペットボトルじゃ、あの隙間には……」
「あら。まあ、ちょっとした冗談よ」
母親は笑いながら、手鏡を出す。
「そうそう手鏡。って。隙間には入るけど、届かないでしょ!」
「あら? ギリギリ届くと思うけど、まあ仕方ないわね。じゃあ、これ」
と言いながら取り出したのは、板状の薄いくし。
「これでOK?」
「うん。まあいいでしょ。って、ここまで来てるよ!」
圭一と母親の親子漫才に飽きたのか、ロボットはすぐ側まで近づいていた。
「あらら、せっかちなロボットね。それじゃ、この佐登子さんの華麗な活躍をご覧あれ」
母親は中身など気にせず、ハンドバッグを右手に居たロボットの顔に向かってぶち当てた。
ロボットはビームを出す暇も無く吹き飛ぶ。
おやまあ大胆。
「今ね!」
母親はくしを突き出した。
細いくしは骨の間を抜け、見事に赤い部分に刺さる。
ポンッ。
ロボット一体は消えた。
「凄いです。おばさま!」
「あらマヤちゃん。お褒めの言葉ありがとう。でも何で、暗い顔をしているの?」
「え?」
マヤはイリアで起こっている戦争のせいで、地球の人々に迷惑をかけているのを申し訳なく思っていた。
敵のロボットが攻めて来るとは。
少しは想定出来ていたはずなのに、準備が遅れていた。
圭一達を巻き込んでしまうなんて……。
「あの、済みません」
「謝らないでいいのよ。あなたは一人でこの星に来た。事情は分からないけど、たった一人で。わたし達は、そんなあなたを助けるって決めた。地球人とか宇宙人とか関係ない。分かり合う事が出来たら、お友達にもなれるはずだわ」
「おばさま……」
「それにあなたは、圭一が選んだ子よ。悲しませる訳にはいかない。だから気に病まないで」
「……はい」
「なんてね。ほんとはワクワクしてるの。あなたと出会えて」
「ありがとうございます」
マヤは笑顔になった。
やっぱり、いい人達だ。
一時は落ち込んだ時もあったけど、それでも、私は圭一達が好き。
だから、この地球を、守りたい。
惑星イリアと同じ風にはさせない。
枝を握る手に力が入る。
ポトッ。
汗が落ちた。
最後のロボットは、正面から来た。
なら、こちらも正面から枝を、というのは嘘。
膝を落とし、頭を低くし、しゃがむ。
マヤを捕まえようとしていたロボットの腕は、空を切った。
(チャンス)
足払い。
ロボットはしりもちを着く。
素早くそのロボットの上に。
真上から、枝を振り下ろす。
ニタ。
ロボットが、不気味に笑った。
「!!」
その瞬間、ビームが、マヤの後ろに居た中島の肩に当たっていた。
転がる鉛筆。
中島は、前のめりに倒れた。