敵、襲来
圭一は携帯電話を持っていない。
だからアラーム音が鳴るはずがない。
腕時計は着用しているものの、アラーム機能はついていない。
そう考えるとこの音は、他の誰かという事になる。
しかし、
(他の誰かといっても……)
ここは小高い丘の上。
林を抜けた広場。
マヤと圭一以外に、今人の気配が無い。
(という事は)
圭一はマヤを見た。
マヤはリングをいじってる。
音が止まった。
「マヤ、もしかしてさっきの音」
「ええ。このリング通信機能もあるの。イリアの仲間達だわ」
透明なガラスの様なモニターに、男性の顔が映る。
テレビ電話みたいな物かな。
所々白髪混じりのお爺さんといった風貌だ。
「博士、どうしたんですか?」
「マヤ、元気そうで何よりだ。わたしの方にも連絡は来ているよ。優しい男の子と知り会ったんだって?」
「はい。今も彼と一緒に居ます。それで今日は?」
「うむ。緊急連絡だ。マヤ、今すぐその場所から逃げなさい」
「え?」
「〈敵〉に君の居場所が知られた。地球に彼らは向かっている。もうすぐだろう」
「……!!」
マヤが通信を切ったその時、
バン。
地面に何かが落ちた音がした。
丸い鉄骨の塊が幾つも転がってる。
と思ったらそれは、人型のガイコツみたいなロボットだった。
彼らは球体の姿から立ち上がると、マヤと圭一に向かって迫って来る。
「圭一、こっち!」
マヤが手を引く。
林の中へ。
とりあえず太い幹の木の影に身を隠した。
「マヤ、あれは……?」
「私達の〈敵〉の兵器。彼らはああいう戦闘ロボットを使って、星の人達を殺した」
「……えっ!?」
「ごめん。詳しい話は、また後で。今はロボットを何とかしないと」
「何とかって、どう……」
ビュッ。
圭一の言葉を遮り、ロボットの指先からのビームが木の幹に当たった。
木はみるみるうちに焦げる。
「そ、そんな……」
圭一は驚愕した。
マヤはズボンのポケットに手を入れて、探し物をしている様。
ちなみに今日の彼女は、ポロシャツにジーパンという出で立ちだ。
「ま、マヤ……」
「ちょっと待ってね圭一。あれ、おかしいな。もしもの為にポケットに入れて出て来たのに。あ、あった!」
手に持ったのは、光る小石らしき物。
「それは?」
「小型の閃光弾。これを投げてロボットの目をくらますわ。その間に逃げましょう」
「逃げるって……。マヤ、あのロボットを止める方法無いの?」
「……あるわ。あっ、圭一危ないっ!」
横から回り込んでいたロボットが二人を狙う。
間一髪、マヤが圭一の体を押し、ビームを避ける事が出来た。
だがなおロボットは迫る。
今度はマヤを捕まえようと。
「……っ」
転びながら、マヤはロボットの手を避ける。
そのまま近くの枝を手に取り、ロボットの胸の骨と骨の間、赤く光る部分を突いた。
ロボットは停止する。
骨がバタバタと崩れ、消滅した。
圭一はまた驚く。
「あれがロボットの弱点。胸の赤い〈核〉の部分に衝撃を与えれば、ロボット達は止まるわ」
マヤが枝を持ちながら立ち上がる。
「そうか。なら君の持つ枝みたいな物で……」
「でも圭一。上手く骨と骨の隙間に通さないと」
「俺も協力するから、大丈夫!」
「えっ!?」
なんと、林の向こうから、中島が駆けて来た。
「な、中島! どうして?」
「お前のおばさんに聞いて、お前を追いかけて来たんだよ。マヤちゃんの事も心配だったし。にしても、異星人の兵器が現れるとはな!」
「ありがとう中島君。気を付けて」
「はいよマヤちゃん。っと、危ねえ」
ロボットは中島をターゲットにし、ビームを放つ。
中島は転がりながら華麗に避けると、石を投げた。
コツン。
ロボットの頭に当たる。
それで怯んだのを見て、中島は迷わず距離を詰めた。
「こんなもんでいいのかな? えいっ!」
中島が武器として使ったのは、鉛筆だった。
それも削っていない方で赤い部分を押す。
なるほど、芯が折れたら困るから。
「ふう。メモ帳と筆記用具を持って来て助かった」
「中島君、凄いわ!」
「いや、どうもどうも」
マヤの声援に、中島は手を振る。
すると後ろに、
ガサッ。
一体のロボットが。
「中島!」
圭一が叫んだその時、
ボカッ。
ロボットの頭を、誰かが殴った。
「あ、あれは…」
そこに現れたのは、ハンドバッグを掲げたまま少し驚いた表情の圭一の母親と、傘を持って自信ありげに笑う父親の姿だった。