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青い稲妻  作者: 北村美琴
第1部地球編
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マヤの行方

 マヤが事件を目撃し、行方不明となってから六日目の夕方。

 圭一は家でテレビを見ていた。

 母親は夕食の支度をしている。

 さっきまで圭一は、中島と電話で話していた。

 ここ最近の圭一の疲れた様子を中島が心配し、放課後マヤの事を聞いてびっくりして電話して来たのだ。


「圭一、お前、大丈夫か?」

「はっきり大丈夫とは言えないけど、彼女見つけるまで頑張るよ」

「そうか。俺も情報を探す。それにしてももっと早く俺に言ってくれても良かったんじゃないか?」

「え?」

「お前とマヤちゃんの事、ちゃんと聞かせろって前に言っただろ? カッコつけて一人で抱えてんじゃないよ」

「中島……」

友達ダチだろ? 俺達」

「……うん。中島、サンキュ」

「フッ」


 中島にだけは言っても良かった。

 が迷惑かけるし、マヤの事は自分で探したいという意思もあった。

 友達だからといって頼り過ぎるのも悪い。

 しかし中島にとってはそんな事関係ない。

 本気で圭一とマヤの力になりたいと思ってくれている。

 ありがとう。

 感謝しかない。

 こんな時間に電話をくれたのも、圭一を励ます為だろう。


「さっきの電話、中島君?」


 母親が圭一に尋ねる。


「うん。マヤの事で」

「そうか。中島君だけはマヤちゃんが地球人じゃない事、知っているんだもんね」


 両親には圭一の友人の中で、中島だけがマヤの秘密を知っている事を既に話している。

 家が近所だし、圭一と中島は特に仲がいいし、お互いの家にも遊びに行った事が何回かある。

 もちろん母親とも顔見知りだ。


「こういう時、頼りになるのは友達の力かもしれないわよ。中島君は、大切にしなさい」

「分かってるよ」


 母親はおかずの準備をする為一旦離れる。

 マヤが居なくなった事を除けば、いつもと変わらぬ風景だ。

 いや、この日は少し、いつもと違う気がする。

 何か特別な日になる様な。

 それは、圭一の心にピンと閃いた予感が物語っていた。


(今日は何だか嬉しい予感がする。何故だろう)


 前にも書いた通り、彼は鋭い直感を持っている。

 ボーッと眺めていたテレビ。


「あ!」


 いきなり叫ぶ。

 何事かと、菜箸を片手に母親が駆けつけた。


「どうしたの圭一、そんな声出して」

「映ったんだよ。今、ちらっと。マヤがテレビに出たんだよ!」


 圭一は興奮冷めやらない。


「やっぱり、今日は何かある予感がしたんだ。まさか、彼女が映るなんて」

「圭一……」


 嬉しそうな息子の様子に、母親も胸を撫で下ろす。

 マヤも自分の娘の様に思っていたから。


「ようし、もう一度マヤちゃん映るかもしれないから、一緒に探そう、圭一」

「うん。でも」

「フライパンの火なら止めたわよ」


 いつの間に。

 って、もう圭一の隣に座ってる。

 今二人が見ている番組は、隣町のとあるパン屋を特集したニュース番組。

 生中継で、マヤが客の一人としてちらっと映ったのだ。

 リポーターがガラスケースの中の美味しそうなパンを紹介する。

 カメラの映像が右に移動した。

 その瞬間、


「あ、ほら、母さん!」

「ほんとだわ。マヤちゃんよ」


 レジで精算するマヤの姿がはっきり映った。


「やっと、やっと見つけた……」


 嬉しくて涙が込み上げて来る。

 自分のこの目で、はっきり見たんだ。

 しっかりと、彼女の姿を、心に瞳に焼き付けた。


「良かったね。圭一」

「うん」

「明日から夏休みだし、マヤちゃん探しに行きなさいよ」

「うん」


 圭一の胸は今、熱い思いで一杯だった。

 マヤが見つかった嬉しさと、早く会いたいという思いで。

 でも、彼はまだ知らなかった。

 テレビの中で見た彼女の瞳が悲しげだった事。

 そして、彼女の口から語られるであろう驚くべき惑星イリアの真実が、彼を待っているという事に。


 ザー、ザー、ザー。


 激しい雨が降り続く夏の夜。

 圭一が、マヤをテレビで見つけた日の、少し蒸し暑い夜の事。

 ドーム型の家の中。

 女の子の泣き声。

 雨の音でかき消されそう。

 ベッドの上で寝転ぶ。

 茶色がかった長い髪。

 シャキッと伸びた手足。

 あの事件以来、圭一の前から姿を消していたマヤが今、そこに居た。

 必要以上に外に出る事もなく、ひっそりと隠れる様に暮らしていた。

 まだ、あの事件の悲しみから立ち直っていないのだ。

 今でも、まぶたを閉じるとあの事件の恐ろしい映像が浮かんで来る。

 狂気に満ちた男の顔。

 飛び散る赤い血。

 悔しさと切なさで、涙が止まらない。

 惑星イリアで散々、似た様な体験をして来た。


(もう、どうしたらいいの……)


 窓の外を眺めた。

 雨は、まだ降り続いている。

 まるで、マヤと同じく、空が泣いているかの様に。

 遠くの方に雷が落ちた音がする。


「明日も雨かな。どっちだってもう、いいけど」


 彼女のその呟きは雨の音でかき消され、遠くの空に消えて行った。














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