女傑ミカーラ
「女傑……?」
ジンとバリーは驚いたようにその場でポカンと、立ち止まってしまっている。
ただの食堂のおばちゃんだと思っていた。
城でフィールズ博士と知り合いだった、なんて事も聞いてはいない。
そもそも本部に来た経緯は?
確か自分で訪ねて来たとか。
メドゥーとマグがメンバーになる一年ほど前。
それは聞いてる。
それでスタッフが足りなかった調理場のメンバーに入る事になったらしい。
もともと料理は得意だった、と本人が語っていた。
でも――、
知り合いの博士が本部に居たからここに来た、ってのは分かるとして、それ以前、城で何をやっていたか、って事が謎だ。
同じように調理場で働いていたのかな。
けど、女傑って……。
頭の中が疑問符だらけだ。
博士も、少しくらい教えて下さってもいいのに。
「ちょっとあんた達! 何ボーッとしてるんだい」
ジンとバリーの耳に、怒声が飛んだ。
「お、おばちゃん……」
「おばちゃんじゃないよ。まったく。まだ戦闘は続いてるんだ。考え事してちゃ駄目だろう」
「ゴ、ゴメンだべ」
「……たく。まあいいさ。あたしの姿を見て、目を覚ましなよ」
ミカーラはロボットに向かって突撃して行く。
「やっ!」
早い。
ボディに向かっての突きが避けられたと思ったら、すかさず回し蹴りを食らわす。
ロボットの顔面に命中。
床に転ばせる事に成功した。
その一連の流れるような動作に、ジン達は感動すら覚える。
「……凄いべ! おばちゃん」
「凄い……、けど、ここまでの強さを、どうやって……」
「女性兵士だったからだ。ミカーラは」
博士が近づく。
ロボット達は博士達よりミカーラの方を相手した方が効率的でいいのではと判断して、彼女の回りにぞろぞろ集まって来る。
床に倒されたロボットは勢いをつけて起き上がり、反撃したものの逆に止めを刺されていた。
ミカーラの手にはペティナイフ。
軽くて、急所の〈核〉が狙いやすい。
彼女に消滅させられたロボットの仲間の仇討ち。
ビームだ。
ビュッ。
危ない。
顔を少し傾げるだけで避け、素早く動く。
懐に入った。
その動き、ロボットには捉えられなかったか。
仇討ちのつもりが、反対にあっという間にやられてしまった。
「お、おば……ちゃん」
「凄い、べ。これが、あの人の……」
「そう。実力だ。女傑のミカーラ。城では、男達に混じって奮闘していた、女性兵士だった。さっきも言ったが……」
「兵士……」
初めて聞く話……。
料理上手で、世話好きで元気なだけじゃなかったんだ。
そういえば、何処かたくましさみたいな物も、彼女の言動の端々からたまに感じられる。
『ソノオ話、私達二モオ聞カセ願エマセンカ?』
リングを通じてクローンとメドゥーが会話に入って来る。
『博士、私達もです』
マヤ、圭一、中島もだ。
「き、君達、一体……」
『位置情報デ、博士達ガ食堂二イラッシャル事ヲ知リマシタ。ソシテロボット達ト遭遇シタ事ヲ確認シタノデス。カメラデ、見サセテ頂キマシタ』
『……俺達の所にはまだ、敵が侵入した形跡がありません。ただ、じっと待っているだけでは、落ち着かなくて……』
「そうか。仕方ないメド、君は、武鬪派だからな」
『……はは。マグにも言われました』
「そうか」
「あら、あたしって結構な人気なんだね。嬉しいけどさ、話ならこいつらを片付けてからにしてもらえないかねえ。いくらあたしでも、全部の相手は出来ないよ」
ミカーラがロボットに蹴りを入れながら言う。
「む、そうだな。今手伝うぞミカーラ」
「頼むよフィールズ」
博士の事を名前で呼んでいるという事は、城に居た時点から博士と仲が良かったと思える。
「は~っ!」
華麗なミカーラのナイフ裁き。
博士が仕留められなかったロボットを二体も倒している。
「どうしたんだいフィールズ。腕、落ちたんじゃないの?」
「いや。腕というよりわたしはもともと科学者だからな」
「でも、王子様付きの科学者だったんじゃないか」
「君も、亡き王妃様をお守りする近衛兵に選ばれただろう。名誉ある事だ」
「……偶然だよ」
「そう、か……」
一瞬ミカーラは悲しげな表情を見せた。
亡くなられた王妃様の事に起因しているのか。
その事については、あまり深入りしない方が良さそうだ。
「ジ、ジン。僕達も手伝った方が、いい……のかな?」
「だべな。っ、バリー!」
彼らが構えるより先に、ロボットのビームが照射された。
ジンはバリーを庇い、飛び込んで伏せる。
ビッ。
背中をかすめた。
服に穴が開く。
「ジ、ジン! 大丈夫!?」
ジンの腹の下になっているバリーが聞く。
「だ、大丈夫……だ、べ。バリーは、怪我が無いべな?」
「う、うん」
「ジン!」
ミカーラと博士が飛んで来る。
「ちょっと大丈夫なのあんた……!? 血……は出てないみたい」
「お、おばちゃん。おいらは平気だ、べ」
「でも、君は少し休んでいた方がいい。バリーは、やれるな?」
「……はい、博士」
エネルギー砲を担ぐ。
再びビームを放とうとしたロボットを爆散させた。
「やるじゃないバリー。ま、ちょっと派手だったけどね」
「ゴ、ゴメンおばちゃん。つい……」
「恨みって、怖いね。あれ……?」
残ったロボットは恐怖を感じたのか、その場から逃げ出す。
「逃げちゃったよあいつら。それだけあたしが嫌だったのかねえ」
「そうかもしれないな」
博士がポツリ、と返した。