ロボットを追えその2
右のドーム一階。
「はあ」とため息混じりの声を出しながら、レジスタンスメンバーの女性がリングの通信を閉じた。
すぐ近くに居た男性メンバーが聞く。
「どうしたの?」
「博士からの通信で、DEX がズェ-支部から奪ったペンライトで自らの身体を縮小させ、このアジトに入って来たそうです。それをマヤ達が左ドーム三階から見ていた、と」
「そ、それは……」
大変だ、と男性は青い顔をする。
「とにかく、わたし達は先に行ったロボット達を見つけて撃退してくれ、と。メド達にも連絡が行っているそうですから」
「そ、そうか。分かったよ」
自分達は今、自分達で出来る事をしよう。
DEX の事はなるようになる。
もし出会ってしまったら、その時はその時。
お、何か音がする。
見つけた。
ロボットの群れだ。
エレベーターの前でたむろしている。
光線銃とナイフを構えた。
それとほぼ同じ頃、
「ソウデスカ。ソレハ少シ困ッタ事二ナリマシタネ。イツ何処デ遭遇スルカ分カリマセン。警戒ヲ怠ラナイヨウ二シマショウ」
左のドームでは、クローンがメドゥーからDEX の事を聞かせてもらっていた。
こちらのドームは今の所静か。
ロボット達の気配も無い。
が、DEX が忍び込んだとなれば、その目的は明らか。
「クローン……」
「正面ノドームト、コチラノドームトノ間ニ〈壁〉ガアル限リ、私達モココカラハ出ラレマセン。ツマリ、私達モマヤサン達ト同ジデス。シカシ、DEX ハイズレコチラノ〈壁〉モ越エルデショウ。モシ、マヤサン達ガコチラニ居ルト気付イテイナクテモ」
「……」
「ソウナレバ戦ウ事ハ避ケラレマセン。覚悟ハ、出来テイマス」
「戦う覚悟だ、ろ? それなら俺も……」
「モチロンソレモアリマスガ、モシモノ時ニハ……」
「それは……。クローン!」
「ソノ為ニ〈私〉ハ生マレタノデス。メドゥーサン」
それ以上言うな、とメドゥーがクローンを諌めた時、右のドームから爆発音が聞こえた。
「あ、あの音は……」
「音ノ強サカラスルト、正面、ノドームデハナイヨウナ気ガシマス。ア、ジンサンカラ……」
すぐにジンが通信を送ってくれた。
『クローン、メド。良かった。通じたべ』
「エエ。通ジマシタヨ。ジンサン、ゴ無事ダッタノデスネ。安心シマシタ」
『うん。博士もおいらもバリーも無事だべ。メドとクローンが何ともないって事は、あの音は……』
「ああ。右のドームかも。確かめてみる」
『頼むべメド。おいら達は、二階でロボット達の捜索を続けるべ。あ、それから二人とも、くれぐれも……』
「DEX の事、か? 気をつけるよ」
『だべ。それじゃ、あ……』
少々慌てた感じでジンは通信を止めた。
ロボット達を見つけたのかもしれない。
メドゥーはクローンと顔を見合せ頷き合うと、
「もしもし、誰か居るか? 大丈夫か!?」
と、右のドームに居るはずのメンバーに向かって呼びかけた。
「ゲホッ、ゴホッ」
煙が充満する中、壁の後ろに身を隠ししゃがみ込む男性と女性。
エレベーターの前でたむろするロボットの群れを発見した途端、一体のロボットが彼らに向かい爆弾を投げつけたのだ。
たまたま爆弾を避ける場所があったものの、煙で姿が見えなくなったロボット達は、その隙にエレベーターで上の階に上がってしまったようだ。
メドゥーからの通信。
男性が気付く。
「も……、もしもし……。ゴホッ」
『メドゥーだ。大丈夫か? 何があった?』
「……ああ、ロボットの群れを追って、エレベーターの前で見つけた時、いきなり爆弾を投げられた。失敗したよ……」
『何っ!? じゃあ……』
「心配ない……。オレも彼女も平気だ。ただ、ロボット達には逃げられてしまった……」
『そ、そうか。良かった』
「だから……、メド達はそっちを。オレ達はエレベーターでロボット達を追う」
『フッ、分かった』
「ありがとな、メド」
『どう致しまして』
ピッ。
良かった。
男性達に、たいした怪我も無いようで。
研究室での戦いの時に、ロボット達の方が博士達にダメージを負わされていたらしいから、ここでの戦闘は最小限に抑えたかったのかもしれないな。
メドゥーが無意識のうちに口元を緩めてしまったようで、隣に居たクローンもつられて笑顔を見せた。
「クローン……?」
「フフッ。メドゥーサンガ笑ウカラデスヨ」
「え? 俺、笑ってた?」
「エエ。ヤッパリメドゥーサンニハ笑顔ガ似合イマスネ」
「え? そ、そうか?」
「ハイ。サア、マタ見回リヲ続ケマショウ」
クローンは先に歩き出す。
「あ、待て」
クローンが通路の奥に行こうとしたのを見て、メドゥーも後を追った。
一方その頃、正面のドーム。
カタン。
食堂内をうろうろする敵のロボット達。
DEX 一行が攻めて来るという予告を聞いて、スタッフのみんなは明かりを消し、厨房の棚の影に息を潜めるように避難していた。
本部を攻められるのだったら、各自の自室に居ても食堂で隠れていても、どちらにしろ同じ事。
ならば自分達の持ち場であるこの場所を守りたい。
そう思うのも無理の無い事。
(ゴクッ)
唾を飲む。
ロボット達は暗い部屋で、頭部のライトを頼りに探索している。
誰かを見つけたら、即攻撃出来るように。
カウンターを調べる。
ここで物音を出してしまったら……。
「そこまでだべ」
いきなり部屋の明かりが点き、ジンが入り口に立っていた。




