アジトの危機
「……っ」
三階に居るマヤ達にも、バリアの歪みで生じるピキ-ンという音と、電気を浴びせている事で起こる微かな揺れが伝わって来た。
博士達はDEX が装置を動かしてから黙ったままだ。
まさかこのままバリアが破壊されるのを待つつもりなのか。
そんな訳ないと思うが。
ロボット達の間から笑みがこぼれているのが見える。
DEX の表情は……?
変わらない。
ただジッと正面を見ている。
ん? 視線が動いた。
上の方に上がって行く。
まずい。
マヤ達はサッと身を潜めた。
窓の下にかがむ。
ピキ-ンという振動が強くなった。
「……もう、大丈夫、かしら……」
窓の下体育座りの体勢からそっとマヤが立ち、警戒しながら顔を出す。
DEX はもうこっちを見ていない。
目線は正面に移っている。
(……ホッ)
マヤは圭一と中島に知らせる。
彼らも立った。
ピキッ。
電気のショックでバリアに亀裂が入った音が響く。
「……!!」
パリン。
透明のバリアの一部が割れ、穴がはっきりと見えた。
DEX が笑う。
そこからさらに亀裂が広がって……。
バリリ。
「ナ……」
笑顔だったはずのDEX の表情が変わる。
ロボット達にも動揺が広がった。
壊れるはずだったバリアの亀裂が、元に戻って行く。
装置のスイッチは穴が開いた時に切っていた。
あとはもう、勢いで壊れるだけだと思ったから。
「ドウイウ、事ダ?」
ロボット達と顔を見合せるが、彼らも首を振るばかりで何も答える事が出来ない。
「フィールズ、オ前カ」
質問にフィールズ博士が答える。
「そうだ。お前の得意のナノマシンを、バリアに注入しておいた」
「ダガ、私ガ訪問スルト予告シタノハ……」
「あらかじめ入れておいたのだよ。予告しなくてもお前は、いずれこの基地を襲撃するつもりだったのだろう。マヤを捕らえた時からな」
「基地全体ヲ包ムホドノ、バリアダゾ」
「フッ。わたしも科学者のはしくれなのでな」
「私達ノ所カラ、情報ガ漏レタカ。ソレトモ……、漏ラシタ〈奴〉デモ居タカ」
「……さあ、な。わたし達もいろいろと戦争で学んだのだよ」
「フッ。マアイイ」
DEX はバリアに近づく。
触手で触った。
「今サラ裏切リ者ガ出テモ、問ウマイ。人間ハ、扱イニクイカラ、ナ」
「……」
「ダカラ怯エテ、震エテ、疼ク姿ガ好キナノダ。コッチハ蔑ミ、ミ限ルダケダカラナ」
「……下衆め」
DEX は大笑いすると、ロボット達にもう一度装置のスイッチを入れるよう伝えた。
今度は電流の圧をもっと高くして。
「……ヤレ」
二体のロボットがパネルを操作してスイッチを入れる。
再びバリアが揺れ出した。
「マ、マヤ、大丈夫なの?」
圭一が心配そうな目で隣のマヤに聞く。
「……分からない。博士達を信じましょう。今の私達には、見守るくらいしか出来ないから」
「そうだね。僕達はここで……。あ……」
DEX の顔がキョロキョロと左右に動き、だんだんと上へ。
「隠れて!」
マヤの号令により圭一達はもう一度窓の下にしゃがむ。
「……まさかDEXの奴、 俺達がここに居る事、目星を付けてるんじゃ……」
「それは無い、と思うけど……。あんまり窓から長い間顔を出すのは、気を付けた方がいいかもしれないわ」
「……そうだね。マヤ、他に方法は無いの?」
他の方法と言われても……。
マヤが口を閉ざすと、リングからクローンの声が聞こえて来た。
「……方法、アリマスヨ。外ノカメラ一個ノ映像ヲ、マヤサンノリングニ送レルヨウ、調整シマシタ」
「クローン……!」
「DEX 達ニ気付カレナイヨウ、カメラノ位置ヲ少シズツズラスノニ時間ガカカッテシマイマシタ。ゴメンナサイ」
「ううん。ありがとうクローン。嬉しいわ」
「……デハ、リングニ映像ヲ送リマス。アナタ方ハ窓カラ姿ガ見エナイヨウ、部屋ノ真ン中アタリニ移動シテ下サイ」
「……了解」
這う様にして部屋の中央に移動すると、窓にス-ッとほぼ無色の幕が下ろされた。
「あれは……?」
「最終手段の〈幕〉よ。もし外から覗かれても、中は光の反射で見えないようになったわ。この部屋だけじゃなく、他の部屋の幾つかも囮として幕が下ろされたでしょうね」
「そ、そう」
「あ、映像が来たみたい」
カメラは右脇の少し上の地点から、DEX とロボット達を捉えていた。