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青い稲妻  作者: 北村美琴
第2部イリア編
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安心、から一転

 谷底の洞窟の中。

 車に積んでいた予備の食料とサプリ、川で見つけた魚の命を頂いて朝食を済ませた圭一達は、崖の上の物音を聞いて外に出た。

 下からは、崖の上で敵との戦いが行われているなんて事は分からない。

 ただ車の音が聞こえた気がした。

 顔を上にして眺めていたマヤが隣のバリーに聞く。


「バリーさん。もしかして、博士達が迎えに来て下さったんですかね?」

「……分からない。ここからじゃ上の様子が把握出来ないから。けど、僕らが聞いた車の音が確かなら、博士達かも、ね」

「そう、ですね」


 博士達だと言う確証が無いから、マヤはため息をつく様に視線を外した。

 同じように首を伸ばしていた中島と圭一も、目線を下に向ける。


「あ~。上ばっか見てると首が疲れるんだよな~。あ~、目が変」

「そんな事言わないでよ中島。もし本当に博士達だったらどうするつもりなの?」

「それはそれ。ラッキーじゃん、そしたら」

「そのラッキーが、本当に来たようだよ」

「え?」


 バリーが嬉しそうに空を指さして言った。


 ブウウウウン。


 ゆっくりと白い車が降下して来る。

 マグが身を乗り出して叫んだ。


「マヤちゃん、平気? 今行くから!」


 そんなに興奮して身を乗り出したら危ないですよ、とクローンがマグを諌める。

 みんなが見つめる中、博士の車が谷底に着いた。


「博士!」

「おおバリー! 圭一君、マヤ、中島君! 無事で本当に良かった」

「……お手数をお掛けして、済みません博士。マグまで来てもらって」

「当たり前じゃないですかバリー。自分は皆さんが心配だったんですよ」

「……マグサンガ心配シタノハ、マヤサンデスケドネ」

「コホン」


 そのクローンのボソッと放った皮肉に、咳払いで返すマグ。


「で、では車にどうぞ。あ、全員乗れるかなあ」

「乗レルンジャナイデスカ? コノ車大キイデスシ」

「う……」


 なんかクローンが突っ込んで来るなあ。

 勝手にアジトを出た事を、怒っているのかなあ。

 マグは少しうつむいて車に乗った。


「……マグさん、どうかしたんですか? あ、済みません。言いたくないのなら、無理にとは……」


 圭一は遠慮がちに聞いてみた。

 自分はまだこの人に嫌われているかもしれない。

 そう思ったから。

 そんな圭一に、マグは正面を見て答える。


「あ。そんな大した事ではないので、あなたは気になさらないで下さい。それより、DEX に崖下に落とされて、大怪我にならなかったのは幸いでした。怖かったんじゃないんですか?」

「心配して、来てくれたんですか? ありがとうございます!」


 笑顔でお礼を伝える圭一を見て、マグは少し戸惑った。


(眩しい……)


 こんなにも素直な笑顔を、自分に向けてくれるなんて……。

 確かにクローンの言う通り、本部アジトで仲間達の話してた、『マヤ達がDEX に崖下に落とされた』という一報を聞いた時、一番に思ったのは彼女の事だった。

 その為に博士達に内緒で車を動かしたのだから。

 しかし一方で圭一達の事を何も思っていなかった、といえば嘘になる。

 バリーは仲間だし、圭一と中島に関しては最初は嫌だったけど、話してみたらああ、いい子達かもしれないという感覚は持ったし、何より彼女が好きな子達なら、仲良くしてみようかな、と思い直しているのも事実だった。

 それを素直に言えないのがまた、もどかしい。

 クローンはもう怒っている様子もなく、博士の隣で前を向いている。

 今のマグの圭一への態度が嬉しかったのか、やや口元が緩んでいた。

 車は崖の脇を上昇して行く。


(助かった)


 とマヤ達は安心していた。

 崖の上に着くまでは。


 バシッ、ギシッ。


 上に到着した矢先、いきなり草むらの中に突入するから、何事かと思った。

 まさかメドゥーとジンがロボットと戦闘しているなんて。


「メドゥーさん、ジンさん!」


 圭一達は車から降りる。


「お、圭一君達が来たな」

「良かったべ~。大した事無かったみたいで~」

「ええ。僕達も手伝います」


 いや、とメドゥーに断られた。

 あと一体だからと。

 が、その一体はクローンが素早く倒していた。


「あ。おいクローン! 俺達の出番が……」

「『出番』じゃなくて、『活躍』だべ。メド」

「スミマセン。思ワズ倒シテシマイマシタ。ソレ二『出番』デモ『活躍』デモナクテ、コノ場合『見セ場』デハ?」

「そ、そんな突っ込み……」

「プッ」


 マグが思わず吹き出してしまう。

 突っ込むのは、自分だけじゃなかったんだ。


「アラ、マグサン。何笑ッテイラッシャルンデスカ? 元ハト言エバ、アナタガ私達二内緒デ居ナクナラレタカラ、コウナッタノデハナイデスカ?」

「えっ、それは……」

「そうなの? マグ」


 マヤが本当? という目で見つめる。


「まあまあ。マグも君達が心配だったんだ。だから君達が落ちたって聞いた時、わたし達に言うより先に体が動いたんだろう。が、わたしとしては彼の身体も心配だった」

「エエ。『マダ横二ナッテイタ方ガイイ』傷デシタモノネ。秘密ニシテオキマシタノニ、何処カラ漏レテシマッタノデショウ」

「まあ、マグが先に走ったからおいら達も準備が出来たんだべ。そうじゃなかったらおいら達、まだズェ-支部で呑気にやってたかも。だから、良しとするべ」


 そんなに居心地が良かったのかな、とクローンは思ったが、せっかくジンがまとめてくれたんで、その言葉を口には出さなかった。

 そんないい雰囲気の中、マグが何かに気づく。


 ガサッ。


 触手だ。

 触手が動く。


「生キテタ、カ」


 それはうねうねと、マヤに向かって伸びて来た。


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