少女の旅立ち
それは、遥か遠い、一つの星の物語。
例え何億光年彼方でも、願いは叶う。
そう、信じてさえいれば。
その青い星は、まばゆいばかりの輝きを放ち、銀河系の彼方に浮かんでいた。恵まれた環境は、緑の大地、青い海、心地よい風という自然と一体となり、人々に住み良い生活を与えていた。
その星の名を、遥かなる大地、地球という。
「発射準備、完了!」
「用意出来ました」
地球によく似た星、ここイリア星では、今一つのロケットが発射されようとしていた。
乗っているのは十三才くらいの女の子一人。
顔立ちはキリッとしていて、それでいて冷たい感じを与えない品のある美少女。
少し涙で瞳が濡れているが、端から見るとそれでさえ可愛く見える。
彼女は震える手でモニターを前にした椅子に座っていた。
決意が決まらないのだろうか。
こんな年頃の少女が一人、ロケットなんかに乗せられて、何処に行こうというのだろう。
「大丈夫か?」
外で作業をしていた男が話しかける。
「もうすぐカウントが始まるぞ」
少女は健気にうつむいていた顔を上げ、男に微笑みかけた。
「大丈夫です。始めて下さい」
「よし」
カウントが始まった。
モニターにも、徐々に減っていく数字が映っている。
「五、四、三、ニ、一、発射!!」
ドゴオンという音と煙と共に、青い光に包まれたロケットは、何処かへ飛び立って行った。
地球。
青くて丸いその星は今日も美しく輝く。
だが、今その瞬間にも何かが近づいている事を、まだ誰も知らなかった。
「圭一、お前、UFOって信じる?」
「え? うん、まあ……」
車が行き交う道路。
その脇の歩道を、数人の男の子達が並んで歩いている。
今名前を呼ばれた少年、横野圭一は、そのグループのちょうど真ん中に居た。
毎日、クラスの仲良し友達と放課後一緒に帰るというのが、圭一の日課になっている。
彼は少し戸惑うように、友人の質問に答えた。
「そうか。俺はそういうのに会えたらいいなって思ってる」
「そ、そう。会ってどうするの?」
「だって面白そうじゃん。UFOとかに乗れたら」
圭一だって、興味が無い訳じゃない。
が、危険じゃないのかなって思う。
ネットやテレビとかでよく、そういう話あるし。
そうこうしているうちに、友人の家の前に着いた。
「じゃ、圭一、また明日な」
「うん」
友人は無邪気に手を振って家の中に入る。
圭一の家は、まだこの道の先だ。
他のクラスメート達もそれぞれ帰っていく。
圭一の家が、一番遠い。
「あ~あ」
家に入るなり、圭一はソファーの上にカバンを投げた。
彼の両親は共働きだ。
まだ帰って来てはいない。
時間は17時。
両親を待つ間、圭一は宿題を思い出し自分の部屋に向かう。
二階の部屋は結構シンプルで、余計な物は置かれていない。
勉強机にタンス、ベッド。
本や趣味のCDなども、きちんと整理整頓されている。
綺麗好きな一面を持った少年なのだ。
机に向かうと、夏の夕方の光がノートを照らした。
少し窓を開ける。
その直後--、
ドッカ~ン。
遠くの方に稲妻のような光が走った。
というより、落ちたという方が正しいかもしれない。
雨は降っていない。
空も暗くなっていない。
だったら何故?
「あの音がしたのは、もしかして……」
勉強などしている場合ではない。
親譲りで好奇心旺盛な彼は、椅子から下りると玄関のドアを勢いよく開け、一目散に走って行った。