本日は誠にZ日和で
我が家では今時分から年末にかけて非常用の持ち出しやストックを点検する習慣があります。玄関近くにサバイバル用品を詰めこんだリュックが隠してあり、パントリーにはローリングストック用のカップヌードルやレトルトカレーを中心とする食料品、さらに常に40リットルほどの飲料用のミネラルウォーターとトイレに2リットル×16本の生活用水ペットボトル…、とにかく用心深い家内の性格がよく表れています。
さらに彼女は今期、携帯用のガスボンベとそれが使えるガスコンロを購入し、その日満足の鼻息をムハーッと吐き出しました。
その顔には「大きな災害は困るけど、軽く大雨とか台風とか…早く停電が起きたりしないかしら♡」と書いてあって、私もその不謹慎さはどうかと思うのですね。
で、私は妻に問うてみたわけです。
「確かに天災に備えるのは大切だけれど、ゾンビに備えるのも大切だと思わないか」
妻は無言でまじまじと私の顔を見てから、それには答えず期限切れの乾パンを口にしました。
「ムグムグ。後は非常用のポータブルバッテリーね。どの位の容量がいいのかしらムグ」
「ねえ、ゾンビがね」
私はもう一度話しかけましたが、彼女は台所へと立ち上がります。
「パスタはストックがあったかしら。無ければイオンの火曜特売で買い足ししないと」
私は台所まで追いかけてエプロンを引っ張ってみました。
「あのさ、ある日街にゾンビがあふれてね」
「シャーーッ!」
私が諦めず話しかけると妻は私を凄い眼で睨んで恫喝してきます。
私はゾンビ以上の恐怖を感じて黙るしかありませんでした。
でもこのサイトで創作など投稿している皆様には多分同意していただけるでしょう。
『ゾンビが溢れる世界でどう生き延びるか』というのはみんな時折考えますよね。ですよね。
私の住まいはマンションの5階の角部屋です。これはもしかしたら結構なアドバンテージかもしれません。何しろ一戸建ては進入路が多すぎます。玄関、窓、勝手口、2階のバルコニー…家族だけで防ぐには厳しい。
その点私は自分のポーチ前だけを封鎖すれば一応ゾンビの侵入を防ぐことが出来るわけです。多くの人達がゾンビに噛まれて、またゾンビ化し「ぐぎゃあぁ」とか「ぶひぇええ」とか呻いている隙に自宅を要塞化できます。ざまぁ。…初めて使ってみましたが使用法は間違ってないでしょうか。
さてゾンビの侵入を一旦は防げました。これでようやく妻が準備した防災用のストックが役立つというものです。ちょっと台所に行ってよしよしと頭を撫でてきたいと思います。
…すでにイオンに出かけていて不在でした。その間に考察を進めましょう。
そういえば今気がつきました。うちのマンションのベランダのことです。お隣との境に壁はありますが何か書いてありましたね。
『非常の場合には破って隣に行くことが出来ます』…何て余計なことを。
ならば玄関先とこのベランダの境界壁にはバリケードとして何を置いたらいいのか、考えておくべきでしょう。そうやって家の中を見渡すと意外と使える家具がありません。よくドラマや映画ではベッドとかタンスとかサイドボードとか家具の大物を運んできて道を塞いだりしてますが、ベランダまでセミダブルのベッドを運ぶなんてこの非常時には無理です。応接セットというのは生憎私の家にはありません。
…さしあたって玄関先には私のミニデスクと本棚を置くことにします。近くにはそれしかありません。多少重量的には不安がありますが、ゾンビってそんなに努力しないような気もします。ゾンビが汗をかきながら協力して「ちょっとそっち持って」「せーの」「どっこらせ」とか言って障害物を撤去してる場面は見たことがないので大丈夫でしょう。
ベランダに近いところにある重いものっていうと冷蔵庫かダイニングテーブル、次点でテレビやパソコン、ウォーターサーバーですが…。冷蔵庫は食料品が入ってますから今後のことを考えると使用不可です。そもそも重すぎて運べませんし。仕方なくテーブルと椅子を積み重ねることにします。PCとテレビは情報収集に無いと困りますし、ウォーターサーバーの水を捨てるわけにはいきません。そう言ったらテーブルだって食事の時には無いと困りますが、ゾンビが隣まで来てますので贅沢は言えません。
うちのテーブルは小さい上に安物で軽めですから玄関同様不安ですが、隣のスズキさんはお歳ですから大丈夫でしょう。そういえばゾンビって若いとか年寄りで腕力に差があるんでしょうか。あることにします。
これでようやくちょっと落ち着きました。しばらくは大丈夫でしょう。
ゾンビものの映画やドラマを見ていると犠牲者は三種類に分類されます。すなわち…①物語冒頭で何が起こっているのか判らないうちにゾンビ化する人達 ②物語が進むにつれて徐々に犠牲になる人(私はこれが最低だと思います。恐怖の中、生き延びる努力を重ねたのに結局悲惨にやられますから) ③終盤まで生き延びる主人公とその周辺。
やはりここは③を目指して何とか終盤まで頑張らねば。
最初にやられる①の人達は世界にゾンビが溢れるなんて思いもよらないという油断をしている人々なんです。私はこの文を書いているこの時点でかなり有利になったと言って過言ではないと思います。
しかし皆さんもご存じの通り、ゾンビはいきなりやって来るものなのです。ドラマ冒頭の犠牲にならないためにも、できたら「今世界は大変なことになっている。外に出るな、気をつけろ!」ってメールをくれる博士みたいのが知り合いにいたらいいですよね。捜しておかないと。
序盤を生き延びても問題はこの後です。妻が備えている食糧や水は所詮2週間分足らず。このまま立て籠もっていてもすぐに限界が来ます。電気やガス、水道などのインフラがどこまで保つかも怪しいものです。
次の避難場所として妻が今行っているイオンはどうでしょう。食糧と水をはじめとする物資が不足することはないと思われます。キャンプ用品売り場を見る限り、燃料や生活用品も豊富に思えます。ここなら数ヶ月、いや数年保つかもしれません。
決めました。とにかく妻と協力してすべての出入り口を封鎖し、イオンに籠城します。
あんな広い場所をどうやって2人で封鎖したかというのは『頑張って封鎖した』というナレーションベースでお願いします。
さてイオン店内のみで生活を維持できるものでしょうか。前述の通り食糧や水はどうにかなると思われます。冷凍冷蔵のものはすぐ駄目になるのでしょうが、カップラーメンや缶詰類だけでもかなりイケそうです。トイレは…多分大丈夫でしょう。緊急用の携帯トイレもありますし、いざとなればゾンビに向かって窓から落としてやります。風呂には入れませんが介護用の身体ふきなどがあったように記憶しています。
避難した当初、電気がまだ生きているうちにポータブルバッテリーすべてに充電をしておけば相当保つような気もします。ソーラーパネルだって売ってましたし。
ガスボンベは売るくらいにあるので煮炊き用のコンロは使い放題です。
キャンプ用品売り場のランタンで照明も問題ありません。いろいろ我慢すれば、やはりかなりの期間ここで生活できそうです。安心しました。
しかし私は妻と二人っきりの生活をそんなに長くできるものなのでしょうか。だんだんと忍び寄ってくる倦怠感と絶望感、妻はガサツな割に心配性ですし何より朝ドラと大河を見逃すと情緒不安定になります。
締め切った薄暗いショッピングモールの中で非常用の食糧を食べながらの二人っきりの生活は長続きしそうもないように思えてきました。何より私の精神が保たないかもしれない。外に出たい、ワーーーッ!
ハアハア…イオンは止めにします。何だかんだ言って進入路は多そうですし、よくよく考えたら真夜中でなければ人だらけです。こんなところに行ったら秒殺でゾンビになるところでした。危ないあぶない。
私の友人であるフジイくんの友達のお父さんがとてもお金持ちでクルーザーを持っていると聞いたことがあります。
私は今これだ!と思いましたね。この人と仲良くなっておくのが大切です。さすがサバイバーjimaと異名をとるだけのことはあります。誰も知りませんけど。
今妻が帰ってきましたので、ここまでの計画を話してみます。
「ねえねえ、ゾンビがね。うん、だからねイオンはやめてクルーザーで外洋にだね…」
…構ってくれませんでした。場合によっては彼女を見捨てて逃げることも選択肢に入れざるを得ません。サバイバーjimaはクールで非情なのです。今キャラづけしてますが。
さて私サバイバーjimaは田所博士(ゾンビの専門家)からメールをもらい、いち早く行動を起こしました。以前から親しくしていたフジイくんの友達のお父さんを訪ねてクルーザーのキーを借ります。お父さんはまだゾンビの襲来に気づいていないので簡単に貸してくれるのです。気の毒ですが仕方ありません。生き残るためには非情のライセンスが必要なのです(キリッ!)。
私がクルーザーの準備をしている間に(私のお情けで助けてもらえることになった)妻は食糧や水、燃料の支度をして港で待ち合わせします。そろそろ街ではパニックが広がりつつあります。いいタイミングですね。私の都合に合わせて事態が進行しているかのようです。
そういえば街の様子を確認する手立ても必要です。海や無人島へ避難するにしてもその後の街の状況は気になります。局地的なゾンビ騒動なのか、それとも全人類的な危機なのか。
そうだ、ドローンを準備しておくのはどうでしょう。時折陸地に近づき、ドローンで上空から街の様子を覗いてみるのです。いいことを思いつくものです。冴えてますね、私ことサバイバーjima。
一応の結論が出たので、もう一度夕食の支度をする家内に話しかけてみます。
「ねえ、災害の準備の中にゾンビ対策は必要じゃないかな。万が一ってことも」
「今夜はビーフシチューに決めたわ。涼しくなってきたし」
「フジイくんの友達のお父さんがクルーザーを持っているらしいんだ」
「バゲットを焼いたほうがいいかしら」
話が噛み合ってないような気もします。
「あとドローンも買っておきたいと思うんだけど」
「ねえ、ニンジン忘れたから買ってきてよ」
「ニンジンじゃなくてドローンなんだけど」
ジャガイモを切る手を止めた妻が私の方を振り向いて、まるで不良学生のような顔で睨みます。
「ああん?」
「わかりました。行ってきます」
…妻の危機意識が足らないのには愕然とします。
そうだ、皆さん。田所博士がどこにいるのか知りませんか。
読んでいただきありがとうございました。
眠れない夜にはゾンビへの備えに思いを巡らしながらあれこれ考えているといつの間にか眠っています。不思議に夢見も悪くありません。
私の妄想が変なのか、家内の反応が異常なのか。皆さん、ゾンビのこと時々考えますよね?ね?