不思議な不思議な隣人〜誰も住んでないはずの隣から聞こえる物音の正体
「なるほど、誰もいないはずのお隣から物音がすると?」
「はい」
とあるマンションに住んでいる私は、カフェでその探偵にそう告げた。20になりこのマンションに一人暮らしする事になったのだが、隣から物音がするのだ。
ここのマンションの管理人はかなりの肝っ玉のおばさんという感じで、「気にしなくて大丈夫」と言う。女性の一人暮らしというのもあり流石にそうもいかない。
「わかりました」
探偵はそういうと店員が持ってきたコーヒを一気に飲み干す。茶色い帽子と茶色いコート、中は黒い上着とワイシャツにネクタイ。いかにも探偵と言う感じの風貌の人だ。その人のバッグには何やらスプレーが数本入っており、最初の文字しか見えないが「物」という文字が見えた。
「ではその物音というのは?」
「はい、壁が薄いので隣の音とか聞こえることがあるらしいんですが、カツ...カツ...と言うような歩く音が聞こえてきたんです」
「なるほど」
「隣の空き家はいつも鍵がかかってて開かないらしいのですが、心配なのでこの事を言って大家さんに言って開けてもらったら床に赤いに足跡が...」
「ほうほう。それは興味深いですな」
そう言いながらその探偵はメモを取る。
「一回、また音がした時にドアの鍵が空いていていたんです。それで入ってみたら...誰もいないんです。そのドアの鍵が空いていたのは一度大家さんが入った時にかけ忘れたってことで解決したんですが...もう怖くて!」
「ほうほう」
「いったい誰が何のためにこんな事をしているのでしょう!?」
「わかりました、ものの...いや誰の仕業なのか調べてみます」
「ありがとうございます!」
そう言うと立ち上がって懐から千円札を出すとスタスタとレジに歩いていった。
「ここですか」
話にあった部屋に入ったその探偵は「ふむふむ...」と興味津々に辺りを見回す。私が言う通り床に赤い足跡がついている。
「ふむ...」
「どうですか?」
「少し調べたいので1人にして貰えませんか?」
「あ、はい」
そう言うので私は外に出て待つことにした。しばらくして何やら声が聞こえてくる。少し耳を澄ませるとおそらく探偵の声だろう。何を話しているかはわからないが、独り言だろうか?
「何やってるんだろう?」
そうは思いながらも外で待っていてくれと言われたので素直に待つ事にした。数十分ほどして中から探偵が出てきた。
「どうでしたか?」
「ふーむ、なかなか手強い相手ですな」
「手強い相手?」
「あーいやいや。とにかく!もう少し時間をかける必要があります。申し訳ないのですが今日は他の仕事も立て込んでいて、明日でもよろしいですか?」
「ああ...はい」
その日の夜。何やらまた物音が聞こえてくる。今度はかなり大きな音だ。ガタガタガタ...ガタガタガタ....その音はだんだんと大きくなっていく。そして誰かの話す声がうっすらと聞こえてくる。
「はあ...いい加減にしてくれ。いつまでいる気なんだ?」
私は自分のドアをあ開けて恐る恐る様子を伺う。隣の部屋は扉が開いていて、電気がついている。少し興味をそそられた私は音を立てないように隣の部屋に移動し中を見てみた。
「なっ!」
その中の光景についそんな声を出してしまう。そこには探偵とピンクのウネウネした、明らかに人間とはかけ離れた謎の大きな物体がいるのだ。
「みてしまいましたか」
その私の声に気づいた探偵がそう言うので恐る恐る近づいてみる。
「実はですな、私は物怪関係の仕事をなりわいとしております」
「はあ」
「結論から言ってしまうと今までの物音はこいつの仕業です」
そう言って紹介されたそのピンクの異形とも言える生物は体をウネウネと動かす。よく見ると目が3つありピンクの体はテカテカとワックスがかかったかのようなツルツル感があり気持ちが悪い。
「足跡もこいつの仕業です。よくみてください下に赤い足がついているでしょう?」
確かに大きな体に隠れているが足が小さく見える。
「でも私は今までこの物怪を見ることが...」
「ああ、私は何もしなくてもこの物怪が見えるのですが、追い出すのでこのスプレーを使って誰でも見えるように実体化させたのです」
それはあの最初に会った時にカバンに入っていたスプレーだ。その時は「怪」と言う文字しか見えなかったが物怪と書いてあるその物怪を実体化させるものだったのか。
「でもどうして実体化を?」
「そうでもしないと動かないでしょうし。まあでも、一向に動こうとはしませんけどね」
「そうですか...」
「困ったものです。動いてくれないと解決しないのですが...」
「ちょっと!なに!?これ!!」
後ろからそんな声がする。そこにはあの肝っ玉の大家が立っていた。
「こいつが原因だったのね!もう許さないんだから!」
「あ!ちょ!」
探偵が止めようとしたがそれはできなかった。止める前に大家がその物怪を持っていた箒でボコボコにしたのだ。それはもう容赦ないぐらい殴りつけ。なんだか可哀想に思えてくる。物怪も涙目を浮かべているほどだ。
「家賃払うのと出て行くの、どっちがいいんだい!?」
そう言うと涙目になりながらノソノソと動き出してどっかに行ってしまった。
「えっと、これで解決ですね」
「あ、はい」
「まったくもう、家賃も払わずに住もうなんてなんて図々しいやつなんだい!」
そもそも物怪にそんなものないと思ったが言わないでおいた。それと同時に、この世で最も恐ろしいのは化け物や物怪などではなく人間なんだなと思った。