走る人と支える人
セバスチャンのおかげで無料ガチャの目玉となるアイテムは何とかなりそうだ。
ゲームと同じ考えではいけなそうなことも改めて確認できた。
はて、そう思うと、スカーレット家のアイテムは私が目玉になると思ってるだけかもしれない。
この世界の人にもちゃんと魅力的なアイテムなのだろうか。
スカーレット家にあるということは、それなりの品であることは間違いないはずだが、それ故に"駆け出しの"冒険者が求めるアイテムとはズレている可能性もある。
無料ガチャを最も必要としている人たちに刺さるアイテムを提供したいものだ。
「おーい、お嬢様、ちょっといいか?」
「あら、アーサー良いところに、聞きたいことがあったのよ」
「おお、なんだ?」
「冒険者として駆け出しの頃にどんなものが貰えたら嬉しかった?」
「んー、そうだな。良く鍛えられた鋼でできた剣が欲しかったな。最初は剣だか鉄の棒なんだかわからねぇようなもんで戦ってたから、ちゃんとした剣がほしかったな」
「そうなのね。じゃあ、それを当たりにしようかしら」
「当たり? 俺はもう今はもっと良い武器を使うようになったからいらないぞ?」
「貴方にじゃないわよ。これからみんなに配るアイテムの中に当たりを混ぜておきたいの」
「ふーん、わかんねえけど、まあいいや。あ、そうだ。頼まれてたやつだけどよ、とりあえず俺の知り合いのジジイを連れてきたんだけど、どうする?」
あ、頼んでいた教師の方ね。
想像以上に仕事が早くて驚いた。
でも、知り合いのお爺さんって……
一応、貴族の令嬢に教える立場の人なんだけど、またアーサーみたいな野蛮な人が来るのかしら。
まあいいわ。せっかく連れてきてくれたのだもの。
会わなきゃ失礼ね。
「まずは、会ってから考えるわ。怪しい人ではないのよね?」
「ああ、大丈夫だ。俺よりはちゃんとしてるぜ」
そりゃ、貴方と比べればちゃんとしてるでしょうよ……
一抹の不安は覚えつつもその候補者の人を連れてきてもらった。
「お嬢様。この度はお招きいただきありがとうございます。既に前線を退いた身ではございますが、お役に立てることがございましたら、何なりとお申し付けください」
アーサーが連れてきたのは冒険者をしていたとは思えない、ましてやアーサーと知り合いだとは思えないほど、所作に品のある白髪の紳士だった。
どこか見覚えのあるような……
「もしかしてエドワード・チャン先生ですか?」
「卑小な私めをご存じいただき恐縮でございます。いかにもご挨拶が遅れてしまいましたが、王都で教員の真似事をしております、エドワード・チャンと申します」
教員の真似事なんてとんでもない。
エドワード・チャンといえば、昔は国を代表する冒険者であり、今は王都のグランドアカデミーの学長であり、なおかつ主人公である勇者の師匠でもある。
序盤のお助けキャラでエピソードを進めるために、スポット的に登場していた。
「もちろん、存じております。数々の武勇ももちろんのこと、私のような若輩者の教育にも力を注いでおられることも知らぬ者はいないのではないでしょうか。
スカーレット家としても、幾度となく助けていただいていると聞き及んでおります」
「ほらな、ぴったりだろ?」
「そ、そうね。でも、どうして貴方がエドワード先生とお知り合いなの?」
「ああ、まあウチの親父と知り合いでさ」
「ダニエルのこともお伺いいたしました。
大変悲しいことでしたが、アーサーが彼の意志を継ぐと聞いたので、私にできることであれば、協力させてもらいたいと馳せ参じました」
エドワード先生の顔にも哀しみが浮かんでいる。
ダニエルと知り合いだったなんてゲーム内では描かれていなかった。
それどころか悪役令嬢の仲間であるダニエルと勇者の師匠であるエドワード先生が、こんなにも懇意な関係だったなんて、全く想像できなかった。
しかし、言われてみればダニエルも冒険者として有名だったし、騎士として王都でも勤めていたので、エドワード先生と接点があったとしてもおかしくない。
「ありがとうございます。
ダニエルは私のせいで命を落としてしまいました。
私はもう同じような悲劇を繰り返したくない。
そのために何卒お力添えください」
セバスチャンだけでなく、エドワード先生も仲間になってくれるなんて、思ってもみなかった。
まだまだ始まったばかりだけど、これだけのメンバーがいれば不可能はないわ!
もう私の気持ちから心配の要素はなくなっていた。
さあ、次回無料ガチャ実装!!!