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この夢は現実なのかしら

アイテムショップでは本来は安価であるはずのアイテムが高騰していることがわかった。

ストーリーの序盤では欠かすことのできないアイテムたちだったし、もともとのゲーム内の価格であっても、初期は買うことは難しく、無料ガチャから出てくることに頼ってシナリオを進めるのが無課金勢の王道だろう。

アイテムは高い、無料ガチャもない。

ではこの世界の無課金勢はどうやって楽しんでいるのかしら。


まあ、いいわ。

どうせ私はエブリン・スカーレット。

この世界の基準で言えば廃課金勢になれるはずね。


無料ガチャがないとすると、有料ガチャもないはずだ。

そうすると伝説級の武器はどうやって入手するのだろうか。

いくらスカーレット家とはいえ世界に一つだけの秘宝を購入するだけの財力や権力はないはずだ。


とりあえず一番良い武器やアイテムを揃えてもらおうかしら。

使えるものは使ってしまおう。

他にもレベル上げに良いダンジョンの情報やモンスターの攻略法も集めないといけないわね。

アイテムの価格が違ったようにゲームの中とは違う事があるはずだし、攻略サイトもないのだから。


「ねえ、このあたりで一番モンスターのレベルが低いダンジョンはどこかしら?」


狭い馬車の中で目の前にいるはずのダニエルからの返答は思いの外遅かった。


「……お嬢様、まさかとは思いますが冒険者に興味があるのですか?」

「?ええ、まずは簡単なダンジョンからにしようと思ってるけど」


元々、怖い顔つきをしているダニエルだが、その目つきが増々悪くなっていく。


「お嬢様。貴女はご自身の立場をお忘れになったのですか?冒険者には冒険者の、スカーレット家の令嬢にはスカーレット家の令嬢としての果たすべき責務があるはずです」


令嬢としての責務?

舞踏会に出たり、王家との繋がりを強くするために婚姻関係を結ぶことかしら。

確かに、冒険者をしている令嬢をお嫁にしてくれる王家も貴族もないのかもしれない。

本当のエブリン・スカーレットであれば、気にするかもしれないが、私にとっては重要な問題ではない。

それよりもゲーム通りのストーリーを進むほうがよっぽど魅力的だ。

でも、私自身が剣を振ったり、魔法を使うことになるのかしら。

それならダンジョンに行くのは、もっと練習してからにしようかな。

何か理由をつけて冒険者の先生を呼んでしばらく練習していたら、そのうちダニエルも少しは納得、いや諦めてくれるかもしれないし。


「わかったわ。確かにダンジョンに行くのは私がするべきことではなかったわね。でも冒険者について知ることはスカーレット家の令嬢としても必要なことだと思うから、冒険者出身の先生を手配してくれないかしら」

「かしこま――」


ダニエルがいつものように優雅なお辞儀をしようとすると、馬車が急停車し大きく揺れた。


「な、なに!?」


馬車の周りから野太い罵声と悲鳴が聞こえてくる。

こっそりと馬車の窓から外の様子を見ると、髭面の大男が数十人の手下を連ねて馬車を取り囲んでいた。


「こんなところに、こーんな綺麗な馬車が走ってたら、襲わないほうが失礼ってもんだよなあ」


その男には見覚えがある。

ゲームのキャラのスカイ・アーカッシュだ。

主人公である勇者を憎んでおり、旅の途中やダンジョンの中など、事あるごとに襲撃を仕掛けてくる敵キャラだ。

敵キャラという意味では私と同じ立場だが、共通の目的があるわけではない。

スカイの敵は勇者も含むこの世界の成功者すべてなので、その意味ではスカーレット家の令嬢である私もスカイの憎き敵である。

なんなら勇者よりも憎まれていてもおかしくない。

ゲームのストーリー上では、勇者が私を倒したりして、それなりに知名度が上がった後に敵として出てくるため、私とスカイの関係性については語られていなかった。


「お嬢様はここでお待ち下さい」


剣を抜きながらダニエルが馬車の外へと出ていった。

ダニエルはもう若くはないが、かつてその実力は国でもトップクラスだったと言われている。

ゲーム上では普段は私のサポートに徹しており、序盤の負けイベントでのみ戦いに参加していた。

本来であればダニエルがいれば私が勇者に倒されることにはならないのだが、そこはストーリーの上手くできているところで、ダニエルの不在のタイミングを狙って私のと決闘イベントが起こされる。

それほど強いダニエルがいれば、スカイが相手だろうと逃げ切ることは容易のはずだ。


いや、むしろ心配すべきはここでスカイが倒されてストーリーが変わってしまうことかしら?


ゲームの中では描かれていないだけで元々あったイベントなら心配することなどはないはずだが、今回は私が思い立ってアイテムショップに来ている。

本来のエブリンであれば行っていない行動だ。

それによってストーリーが変わってしまうこともあるだろう。


まあ、いいか。

別にスカイが倒されたからって関係ないよね。

あー、でもスカイがいなくなることで、あのイベントが起きないと少し勇者も不利になるかも?

でも道中の邪魔もなくなればメリットもある気もするし。


護衛の騎士たちに加えてダニエルが戦闘に参加したことで私達の陣営は有利に戦いを進められるようになっていた。

スカイもまだ諦めていないようだったが、ダニエルの前では防戦一方だ。


てか、この夢長くないー?

馬車の中で待ってるだけの夢ってどうなのよ。

ディテール細かいし、結構長い時間が経った気もするから、そろそろ覚めても良いと思うんだけど。

そうだ、夢なら私も戦っちゃってもいいんじゃない?

ゲームの中で序盤のボスを張れるだけあって、エブリンの実力だって相当なもんだし。

今の私が魔法を使えるのかわからないけど、夢なら念じたら唱えられるってもんでしょ!


「私も戦うわ!」

「お嬢様っ!?」


私が馬車から飛び出したことで、ダニエルは驚愕の表情を浮かべる。

その隙にスカイは不敵な笑みを浮かべた。


「ほんと、これだから温室育ちの奴らってのは好きすぎて嫌になるぜ」


スカイの手から大きな火球が放出され、私に向かって飛んでくる。


「ウォーターボール!」


火を打ち消すには水だ。

私はすぐに水属性の魔法を唱えた。


しかし、私の思惑とは異なり、魔法が発動する様子はない。


あれー、夢とはいえうまくいかないもんだ。

まあ、これで死ぬと思ったら目が覚めるってよくあるパターンかな。


夢とは思えぬリアルな熱気を肌に感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。

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