令嬢になっているという夢に見るよくある話
目が覚めて最初に感じたのは頬に触れるきめ細やかな絹の感触だった。
あれ?いつの間に寝たんだっけ……?
微睡みながら、枕元に置いたであろうスマホを探す。
んー、どこ置いたっけ。
いつものところで見つけることができず、眠気まなこを擦りながら、しぶしぶベッドから出る。
出る。
出れない。
私のベットは都内のワンルームに見合った省スペースなシングルベッドだ。
それなのに何故横を向いても足がベッドの上に乗っているんだろう。
私が寝ていたベッドは見慣れたものではなく、ダブル、いやキングサイズはあるであろう豪華なベッドだった。
もしかして、私やっちゃった……?
最初に考えたのは昨晩飲み過ぎて、そのまま誰かとキングサイズのベッドで寝てしまったことだ。
確かに周りを見渡すと通常ではない豪華な部屋にいることがわかる。
しかし、それであればいるはずの相手の人物は隣には見当たらない。
どうしちゃったんだろう。全然思い出せないな。
考えがまとまらないまま、部屋の中を歩き出すと、ふと姿見が目に映った。
ん?……ん!?
鏡に映っていたのは、見覚えのある私ではなかった。
いや、見覚えはあるのだが、私ではなかった。
エブリン・スカーレット……!?
見覚えがあったのは、私が好きなソシャゲのエターナル・オブリージュのキャラクターであるエブリン・スカーレットの姿だった。
……夢か。
どうやらまだ夢の中にいるようだ。
しかし、どうせならもっと幸福な夢が良かった。
エブリン・スカーレットはエタオブの序盤の敵キャラであり、悪役である。
そんな負けが確定しているキャラクターになってしまったのは一体どんな深層心理が働いてしまったのだろう。
でも、エブリンも幸せになってほしかったな。
こう思ってしまうとこが、こんな夢を見た原因だろう。
エブリンは悪役ではあったが、間違っているとは思えなかった。
貴族としての誇りと責務を重視しており、厳密過ぎる貴族意識が高かったため、変革を望む主人公にとっては悪役になってしまった。
しかし、エブリンのような人物も世界の平和のためには必要だと信じている。
何故なら彼女こそノブレス・オブリージュを体現していた人だからだ。
エブリンは裕福な貴族の令嬢であることはもちろんのこと、その立場に産まれた者の責務として、勤勉に魔法や政治、経済、哲学など幅広い学問を習得し、なおかつそこで学んだ知識を社会に還元していた。
確かに平民である主人公にとっては、貴族がさらに栄えるための行動に映っていたと思うが、それはただの悪ではなく貴族としての正しい行動であったと私は思う。
でも、エブリンは死んじゃうし、その後の世界はもっと酷いものになっちゃうんだよね。
エブリンはあくまで序盤の敵であり、ストーリー上のメインのぼすは他にいる。
封印されし魔王が蘇り、人間社会を破壊していく。
それを救うのが主人公たる勇者なのだ。
しかし、タイミングが違えば、エブリンも勇者と手を取って魔王討伐に臨んでいた未来もあったんじゃないか。
私だったら、勇者や聖女とも仲良くやりたいな。
夢だからこそ、ifストーリーを望みたい。
まだまだ覚める兆しの見えない夢の中で私はエブリンとしてのifストーリーを夢見ていた。