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2日前に発生した「田中 ツカサ」という飲食店経営をする男性が繁華街で刺殺された状態で見つかった事件は、真犯人も犯行手口もあっという間に判明してしまった。事務的作業や証拠などの洗い直しで捜査一課や捜査本部は一気に慌ただしくなっていた。
午後七時、捜査本部に配属されていた洋輔は忙殺されかけたところやっと解放されてよろよろと歩いて警察署を出た。
「一課のボウズ」
「はへ?」
今日初めて呼ばれた「一課のボウズ」という呼び名が洋輔の脳内にはしっかり定着しており、反射で顔を上げて答えた。すると目の前には如何にも片田舎のヤンキー丸出しの黒に金色ラインのジャージを着た灰島 アカネが立っていた。
「は、灰島警部補…」
「お前に手柄譲ったんだから、一杯奢れよ」
「は…? 手柄?」
「相模 カナタ。田中殺しの。お前捜査本部だしお手柄だろ?」
「あ、あああああれは! 警部補に言われて手錠をかけただけであって!」
洋輔は急に恐縮して焦って弁明する。しかし灰島は大きな溜息をつくと洋輔の肩を組んだ。
「手錠かけた奴の手柄だよ。さーて、と…焼き鳥でも食うかな」
「俺帰って寝たいんですけど…」
「あ?」
「イエ、オトモサセテイタダキマス……」
東海林 洋輔、24年の人生でヤンキーという種族に触れたことはなく人間としての防衛本能が発動してしまっていた。