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アカネに書類作成や逮捕の手続き等々、全てを丸投げされた崇文は定時で帰ることは不可能で頭を抱える。一旦心を落ち着かせる為に喫煙室でコーヒーを片手に一服していた。火をつけたとき、大柄な男が入ってくる。
「あ、どうも、熊井さん」
「おー、長興。そういや田中殺しの担当お前ってことは…丸投げか」
熊井が愉快そうに笑うと崇文は大きくため息をついて「笑い事じゃないですよ」と反論する。
「俺らが必死に捜査してたものがいとも簡単に…って拍子抜けてる奴らもいますよ。アカネの洞察力とか、あれはもう天性のものなのでどう足掻いても追いつけません。アカネはもっと自分を誇るべきなのに…」
崇文はヤケクソに煙草を吸うと、熊井はもっと笑う。
「しかし、ホシも驚いたろーな。あのナリでΩだからフェロモン効かねぇんだし」
「最近の新人からはαだって思われてますよ」
最後のひと吸いをし吸殻を灰皿に投げ込むと崇文は「失礼します」と一礼して喫煙所をあとにした。熊井はちらりと見えた崇文の左手の薬指を見、煙を吐き出すと吸殻を捨てて喫煙所をあとにした。