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お互い奇妙な気持ちだったが、変わらない兄弟のやり取りができている。この空気に二人はホッとしている。
悪ふざけのプロレスごっこで洸哉がギブアップをし、勝負はついた。そして洸哉は「まったく」と呆れながら立ち上がって仕切り直すと、朝ご飯を作り始める。そして出てくるタイミングを伺っていたであろう光莉は目を真っ赤に腫らして洸哉の部屋から出てきた。
「よぉ上条。そこ座れよ」
「おはようございます…」
光莉はアカネに促され、アカネの向かい側に座った。
「光莉ちゃん、おはよう」
「おはよう」
「えっと……」
光莉の顔を見た洸哉は話を全て聞かれたのだと悟り、どう声をかけていいか困惑する。そんな洸哉の様子を察したアカネはにやりと笑う。
「上条ぉ、立ち聞きとはいい趣味してんなぁ」
「あ、あの…その……ご、ごめんなさい……」
「そういうことだから。コイツと結婚を本気で考えてんだったら、ご両親には伝えておいてくれ。あんまり世間体がいい話じゃねぇからな」
「………わかりました…」
光莉は驚いたように顔を上げたが、アカネが煙草を吸いながらも真剣な顔をしていたので返事をするが、光莉にとってかけがえのない大事な二人の境遇が「悪いもの」という認識になることが悲しく、止んでた涙がまたこぼれた。
「光莉ちゃん…」
光莉の涙に驚いた洸哉は急いで光莉に駆け寄り、光莉の隣に座ると光莉を優しく抱きしめた。光莉は「違うの」と言って首を横に振る。
「私、は…大丈夫……警部補、は……確かに、ちょっと…怖い、の、あるけど……でも、すごく尊敬できる人で……お、同じ、警察官、だから……世間体、とか…悪いなんてちっとも思わなかったし……洸哉くんは、今まで出会った人の中で一番優しくて……本当に大好きだから…だからぁ…」
「光莉ちゃん…」
アカネはぬるくなったコーヒーを一気に飲み干すと、立ち上がって光莉の頭を優しく撫でる。
「上条、あとは頼むな」
何故か光莉に後を任せるような意図の言葉を残し、アカネは自室に戻る。そしてすぐに出てきた時にはいつも通りによれたワイシャツにジャケットとスラックスを穿いた「灰島警部補」の姿だった。
「洸哉、今日はどうなるかわかんねぇからまた連絡するわ。じゃあな」
「行ってらっしゃい…」
泣き止もうとする光莉を抱きしめていること以外はいつもの通り、洸哉はアカネを見送った。玄関のドアがバタンと閉まって数分、やっと光莉は落ち着いた。