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子どもたちが学校から帰る前に、光莉と熊井と洋輔は暇し、洸哉と園長は3人が乗った車が見えなくなるまで見送った。
「少し登っただけなのに冷えますね」と洸哉は身震いする。そんな洸哉を見て園長は「ふふふ」と笑い「早く中に入りましょう」と促した。
洸哉は荷物を取りに園長室に入ると、隣の職員室から「えええ!」と驚くような声が上がった。園長が直結するドアを開けて「どうしました?」と声をかけた。
「あ、園長先生! 今ニュースで、峯口官房長官が逮捕されたって」
職員の一人がテレビ画面を指しながら言う。
「そんなの今日の新聞に載ってたでしょ?」
「あれは任意同行ですよ、反社との繋がりとかで。違うんですよ、逮捕されたのは多数の未成年Ωへの強制わいせつと暴行だそうですよ。20年前の証拠も揉み消してもらってたのが出てきたって」
失望と驚きの表情で職員は園長に言う。職員たちは園長は軽く流すだろうと思っていたが、園長はテレビに食いついて青ざめた。
「…揉み消されてた?」
「園長…?」
「あ、いや…もしかしたら、私が出した被害届も…あるかもしれないって…」
園長の言葉に職員だけでなく、後ろにいた洸哉も驚いた。
「昔、20年以上前に、施設にいたΩの子が…峯口に強姦されてボロボロになって帰ってきたの……私は警察に被害届を出して、警察も峯口の犯行だと証拠も出て捜査をしてくれて…なのに不起訴になってしまって…」
当時を思い出したらしい園長は、そのΩの子を思ってか泣き出してしまう。
「やっと…やっと……報われたのね…」
そう泣きながらつぶやく園長の背中を見て、洸哉は決心を改めて固めた。
(こんな悲しいこと、少しでも減らしたい……絶対に俺は弁護士になってやる。お兄ちゃんだけじゃなくて、園長先生にも恩返ししなくちゃ…)
10年前、バース性に関しての法律は大きく改正され、特に未成年とΩへの強制わいせつ及び暴行は厳罰化され、複数で悪質な場合は無期懲役を下されることもある。そして時効は無くなり、改正前の事件であろうと立証されれば裁かれるようになる。これは殺人と同等の扱いにされる。担当は捜査一課が一般的である。
なので逮捕された峯口官房長官の罪はイメージダウンだけで済むようなものではない。
この速報は国民全員を驚愕させた。
その日の夜には国会議事堂前にΩ性の保護団体が集まりデモを起こす。総理大臣の腹心と言っても過言でない官房長官がΩに暴行を働いたことで、政府への疑心暗鬼は止まらない。
2日経ってもこのニュースでテレビは賑わう。
病室に軟禁されているアカネもうんざりしてテレビを消した。
「はぁ……暇だー……」
ベッドでごろごろしながら、ふと窓の外を眺めた。寒々しい曇り空と遠くのビル群が見える。銀杏の木が黄色くなっているのも少し見え、秋から冬の移ろいを実感する。
「今年は……あいつらと美味い熱燗、呑めっかな…」
___来年の、花見酒も。