腑が煮え繰り返る程腹が立つ
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「はぁっ、はぁっ、なんで俺がこんな目に遭わなければならないんだっ!!」
あの日、たまたまバルコニーから星空を眺めている時に奴らの存在に気づく事ができた。
奴らは空を飛びながら此方へ向かって来ているではないか。
ここへ迷いなく来る理由など一つしか考えられない。
あの地下室がバレてしまっては俺も両親も、そしてホーエンハイム家も終わりである。
バカがクロード殿下を誘拐していなければ、そんな事が頭をよぎる。
なぜバレた? どこから漏れた?
いくら考えたところで思い浮かんでこない。
賊達にはクロード殿下については他言無用の契約魔術をお互いに施している為、契約魔術が発動している間は外にもれる事はまずないはずだし、そもそも両親や使用人たちはクロード殿下を監禁している事は知らない。
「くそっ!!」
今思い出しても腑が煮え繰り返る程腹が立つ。
なぜ俺がこうも泥に塗れて逃げなければならないのか。
「くそっ! くそっ! くそっ!!」
誘拐ビジネスはようやっと軌道に乗ってこれからというところであったし、両親からもホーエンハイム家の家督を俺が継ぐ旨の契約も数日前に結んだばかりである。
なんで俺が。
これからという時に。
俺の手に入るはずだった輝かしい未来は、いとも容易く俺の手からこぼれ落ちていった。
しかしながら俺もバカではない。
バカではないからこそ、こうして逃げる事ができているのだ。
空を飛べる魔術を扱える時点で彼らは間違いなく化け物級だと思って良いだろう。
冒険者でいうとSランク以上は確実であり、レベルは四十前後と見て良いだろう。
その事が今回の件が帝国側に漏れている事の何よりもの証拠であった。
それは奴らをこの場で倒した所で意味がない事を示していた。
きっと、顔に泥を塗られたと思っている帝国は何がなんでも首謀者である俺を生捕にして処刑したいはずである。
それこそ皇族のメンツに関わるので、その力の入れようが、今回収集したメンバーの強さに比例しているからこそ、あの空中を飛べる程の連中を呼んできたのであろう。
「へっ、へへっ。 だが、俺は逃げ出してやったぞっ! テメーら皇族の顔には俺という泥を一生付けて生きるんだなっ!!」
しかしながら、帝国よりも俺の方が一枚上手だったようで、今俺はこうして生き延びる事ができたんである。
あとはがむしゃらに闇ギルドまで逃げるだけである。
闇ギルドにさえ逃げ切る事ができれば俺の勝ちである。
そして、その闇ギルドまでは三つ隣の街にあり、馬車では二日、徒歩で三日から四日程の距離にある。




