自分に都合の良い妄想
「ちょ、調子に乗りやがって……」
「あ? 今まで調子に乗っていたのはお前たちの方だろ? むしろ今まで調子に乗らしていただいてありがとうございますって言う所じゃないんですかね? それじゃぁ、死のうか」
せっかく俺の優しさで生き残れる道を残してやったと言うのに、弟のグエンはどうやら死にたいらしい。
実に残念だ。
「ハ、ハッタリだこんな事っ! そもそもお前如きが父上の【火炎球】をまともに受けて大丈夫なはずがないんだっ! きっと何かタネや仕掛けがあるはずだっ! マリーも目を覚ませっ! コイツは恐怖心で俺たちの思考を鈍らせて、奴隷に堕とさせる事が目的に違いないっ! もう全ての手札を使ったからこそ今コイツはそれが俺達にバレてしまう前にこうして俺たちを奴隷に落とす事を急いでいるんだっ!」
「そ、そうねっ! 言われてみればグエン兄さんの言う通りだわっ! 良く良く考えたらコイツが魔術を扱える時点でおかしいものっ! ハッタリとしては良く出来ていたと思うけれども、少しだけ焦りすぎてボロが出てしまった見たいねっ! やっぱり屑は屑でゴミ虫だったわねっ!」
さて、可愛い可愛い弟のグエンをどうやって懲らしめてやろうかと考えていたその時、グエンは何かに気付いたのか勝ち誇ったような表情をした後俺を見下すように睨み付け、ベラベラと良く分からない持論を話し始める。
そのグエンの持論を聞いた妹のマリーは、それが正しいと思ったのか、先ほどまで絶望していた表情が一気に明るくなると共に、やはり弟と同様に俺を馬鹿にするような目で見始め、ベラベラと良く分からない事を言い始める。
どうやらコイツらが言いたいことは『そもそも俺が魔術を、それも父上を圧倒できるだけの魔術を扱えるなどあり得ない。 ハッタリに決まっているので何か種があるはずだ。 そして俺の狙いは自分達を奴隷に落とす事。 しかしながらそのハッタリのために使った種はもうない為、それがバレる前に自分たちを奴隷に落としたいと思ったからこそ、奴隷の下りが少し強引だった』という事らしい。
実に、この兄弟らしい自分に都合の良い妄想である。
もし万が一弟や妹の妄想が当たっていたとして周囲を囲んでいる俺の奴隷達はどうなるのだろうか?
先程のサラの動きを見れば俺をどうにかした所で何も解決できていない事に気付くはずであるのに、コイツらの思考回路は一体どうなっているのか。
都合の悪いことは記憶の中で抹消され、視界には映らないようにでもなっているのであろうか?




