私を生贄にした訳ではないと?
そして私は一日でも早く黒い仮面の君の肖像画を描き切れるレベルになれるよう、今日も空いた時間に絵を描くのであった。
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「なぁスフィア。 これから俺と一緒に食堂へ行かないか」
「いえ、結構です。 私にはやるべき事があるので大丈夫です」
なるべくスフィアを刺激しないように注意して、優しく話しかけるのだが、当のスフィアは俺に一瞬だけ目線を向けた後興味無さげに視線を外して絵を描く作業に戻る。
皇族であり、皇位継承権を持つ俺からの食事への誘いは、異性ならば喉から手が出るほど欲しがる物ではないのか? とスフィアの態度をみて一瞬だけ思うも、きっと照れているだけだと判断した俺は更に話しかける。
「やるべき事って……………その変な男の絵を描くことがか? そんな絵なんかわざわざご飯を食べながら書くようなものではないだろう。 それに、食べながら何かするのは俺ははしたないと思うな。 こんなのが続くようなら流石の俺も幻滅してしまうかも」
「はぁ、そうですか。 なら勝手に幻滅してください。 それにわざわざ片手でも食べやすい様にサンドウィッチを作ってきておりますので、わざわざ食堂へ行く意味がありません。」
こいつ、言わせておけば……いや、ここでカッとなってキレてしまったらあのカイザルと同じだ。
自分の感情をコントロールできない奴はサル以下だ。
深呼吸して一旦落ち着こう。
「いやいや、そんな不味そうなサンドウィッチなんかよりもさ、俺と一緒に食堂のご飯を食べた方が絶対に美味しいからさ。 腐っても貴族が通う学園で出す料理なんだ。 当然それを料理する者達は帝国の中でも腕利きの料理人すスカウトしてきた者達だからそんなサンドウィッチなんかと比べるまでもなく美味しいぞ」
「そんな事など、私もここに通っておりますので承知しております。 それに、人が作って来た料理を指さして『なんか』呼ばわりするのは流石に最低だと私は思います。 それで、他に用が無いのであれば邪魔なので他所にいってもらえませんか?」
下手に出ればつけあがりやがって。
お前なんか俺の婚約者にも成れない下級貴族であり、所詮はヤリ目的で優しくしていただけだというのに何だ? この態度は。
「なぁ。あの日の事を根に持っているのかい? あれは本心から出た言葉じゃないんだ。敵を欺くならまず味方からだと言うだろう? 確かにあの時言った言葉や俺の行動は客観的に見て最低だと思うんだけどさ、その行動を取る理由も考慮してほしいんだけど……」
「なるほど……身体中から液体という液体を流し、漏らしながら鬼の形相で私に『俺の代わりにレイプされろ』と賊に差し出したのは私を生贄にした訳ではないと?」




