嘘じゃない
ある日、メリッサから深刻な表情で呼ばれ、思い悩んでいる事、それを解消するには俺でなければいけない事であると言われれば、奴隷にしてしまった手前断る事も出来ずに「俺で良ければ相談にのるし、俺にできる範囲ならば極力対応してやろう」と返事をしつつ、何事かと心配しつつ呼ばれたとある地下室まで付いて来てみれば、地下室に入るや否や開口一番これである。
何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何を言われたのかわからねぇ。
頭がどうにかなりそうだった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を感じ取ってしまう。
自分を見つめ、常に気を付けて相手にしなければ喰われ、戻って来れなくなる。
そんな異様な恐怖を、メリッサから感じ取る事ができる。
深淵(性癖)を見つめる時、深淵(性癖)もまたこちらを見ているものだ。
いやしかし、まだそうと決まったわけではない。
勝手にメリッサを変態だと決めつけるのはメリッサに悪いだろう。
「えっと、どうして俺に踏まれたいのか順を追って説明してくれないか?」
「あぁっ! そうですっ! その目ですっ!! ……すみません。 少し取り乱してしまいました」
す、少し……だと? 俺にはトリップしかけていたように見えたのだが、気のせいだろうか?
そしてメリッサは恍惚な表情で語り始めると共に、俺精神はガリガリと物凄い勢いで削られていく。
メリッサの話を要約すると『俺に性癖を捻じ曲げられた。 責任をとってこの性癖を解消してほしい。 ここ最近は欲求不満でどうにかなってしまいそう。 なので私が正気でいられる内に解消してほしいのと、これから定期的に解消してほしい』という事であった。
えぇ……これ、俺が悪いのか?
しかし、奴隷の中でもクヴィスト家から引き抜いてきた元メイド奴隷を束ねる存在でもあるメリッサの頭がおかしくなったと周囲に知れた時の事を考えると、今ここで彼女の要望に応えて溜まりにたまったモノが爆発する前に解消してやるのが最善の手であるように思えて来た。
「先ほどカイザル様から『俺にできる範囲ならば極力対応してやろう』という言葉を頂いたのですが、それは嘘なのでしょうか?」
うーん、嘘じゃない。
嘘じゃないんだ。 だからそんな打ち捨てられた子犬のような表情で俺を見ないで欲しい。
そんな表情をされたら何とかしてあげたくなるのだけれど、メリッサが言っている事はただの変態行為のサポートだからな。
「……………………」
「……………………わ、分かった。 でも過激なのは駄目だぞ? あくまでも常識的な範囲でだ」
「は、はいっ!! ありがとうございますっ!!」
きっと、子供が出来たら甘やかしてしまうんだろうな、とそんなたらればを思いながら俺は目の前で満面の笑みを浮かべるメリッサを見るのであった。




