やり過ぎた
「我が主人よ、我々を神の領域に近づけて頂いた事、感謝しても仕切れません。 コレで私は貴族間にある闇を難なく裁く事が出来ましょう」
まるでこの後「さぁ、命令を」という声が聞こえて来そうなほどの表情で、俺の前で跪き喋り出すブリジットと、その後ろに跪き頭を垂れる奴隷達。
この光景を見ず知らずの他人が見たらどう見えるだろうか。
俺だったら間違いなく『悪の組織』だと勘違いしてしまう自信しかない。
やり過ぎた。
何度そう思っても後の祭り、育ってしまった事は仕方ない。
だったらもう振り切ってしまおう。
そう思ってしまうのは仕方のない事だと俺は思うのであった。
◆
「や、やめてくれっ! 謝るからっ! やめてくれっ! 俺が悪かったっ!」
地下室特有の湿った空気、薄暗い部屋。
そして、冤罪を被る事を認めて俺に謝罪をし始める庶民の懺悔の叫び声。
あぁ、実に心地よい。
それらを身体全身で感じながらワインを嗜む。
「そっか。 じゃあ俺の財布を盗んだ事を認めるんだね?」
「認めるっ! 認めるから許してくれっ!!」
「じゃあ白金貨二百枚、返して貰おうか?」
「は? ……へ? は、白金貨……二百枚……?」
「そうだ。 白金貨二百枚だ。 お前が盗んだ財布に入っていたはずなんだけどなぁっ!?」
どこのバカが白金貨二百枚も財布に入れて持ち歩くんだよ。
大貴族でもそんなバカな事するわけないし、何より白金貨二百枚も入る財布なんか見た事も無ければ、もしあったとしても重過ぎてズボンなどのポケットに入れて持ち運べるようなもんじゃないっての。
何キロすると思ってんだよ、白金貨二百枚。
でも──
「盗んだってさっき言ったのはお前だろうがよっ!! なにボケッとしてんだよこのカスっ!!」
「あぐぅぅううっ!!」
──盗んだって本人が言うんだから信じよう。
俺は人を信じる優しい心の持ち主だからな。
「まさか返せないとでも言うんじゃないだろうな?」
「さ、さすがにその量の金を使いきるなんざ、お、俺にできる訳が──」
「あ?」
「ひぃいっ!! す、すみませんっ!すみませんっ!」
謝るくらいならば初めから無駄口を叩かなければいいのに、こういう奴らに限って毎回同じように、一度罪を認めているにも関わらずこうして歯向かってくる。




