奴隷が一人増えた
「それにしても、その話が本当だとして何故貴様はそれ程までに嬉しそうなんだ? そして、仕えるってお前なぁ……。 下手をすればモーデル家は爵位剥奪されてもおかしくはない事ではないか。 最悪一族打首なんて事もあり得るのだから絶望したり悲しんだりするのが普通ではないのか?」
そして俺は目の前で目をキラキラさせながら俺を見つめてくるブリジットへ問いかけると、当のブリジットはその質問を待ってましたとばかりに口を開く。
「私は悪が嫌いです。 我が父上がやろうとしてた事は正義のフリをして裏では悪事を行っていたという最低な行為でございますし、その悪党は公爵家という権力も持ち合わせている巨悪でございます。 並の者では太刀打ち出来ません、それこそ皇族でも難しいでしょう。 それをカイザル様はいとも容易くやってみせたのです。 それもお一人で」
「あ、ああ。 それは先程聞いたな。 それと何が関係あるんだよ……」
そう俺が言うとブリジットはここまで言っても分からないのですか? というような顔をしてくる。
殴ってやろうか。
「いえ、カイザル様が理解出来てない筈がございませんね。 ですが、本人の口から直接聞きたいと、そう言う事であるのならば、畏まりました」
そしてブリジットは隷属の首輪をどこからともなく出すと、俺へ握らせてくる。
そもそもコイツがいうには仕えるであって奴隷では無かったはずだが目がイッているので、俺は感じたことのない種類の恐怖を感じ取った為あえて指摘はしない。
「モーデル家の者である私は信頼出来ないでしょうからこの隷属の首輪を私につけて下さい。 そして私の主人になってくださいっ! さすれば私はカイザル様に永遠の忠誠と、この剣を捧げる事を誓いましょうっ!! 私はっ! この剣を捧げても良いと思える様なお方に出会えたという奇跡に今、魂から喜びで溢れているのですっ!」
コイツ、ヤベー奴じゃん。
コレが、ブリジットの話を聞き終えた俺の第一印象であった。
そして俺が引いて言葉に詰まっている間もブリジットは「さあっ! この首輪をっ!!」と迫って来るではないか。
良く? 言えば猪突猛進であり、悪く言えば行動力だけはあるバカという言葉がしっくりくる。
「ち、因みに俺が拒否すればどうするつもりだ?」
「自害します」
「え? いやそこまでしな──」
「自害します。 当たり前です。 私は関係無くともモーデル家の一員である事は変わりません。 しかしながらタダでは死にません。 モーデル家を潰してから私も死にます」
「……いやでも──」
「大丈夫ですっ! カイザル様にはご迷惑を一切お掛けしないと誓いますっ!」
「……分かった。 俺の負けだ」
そして俺は長い溜息と共にブリジットへ隷属の首輪を嵌め、忠誠を誓わせる。
この日、新たに俺の奴隷が一人増えたのであった。