貸し一つ
そして、皇帝陛下は俺の推理が的中しているのか『どうしよう。 全部バレちゃった……。 こっからどう切り返したら良いのかな』みたいな表情をしているではないか。
奴隷は騙せてもこの名探偵ばりの推理力がある俺までは欺けなかったようだ。
皇帝陛下のミスはクロード姫の婚姻相手を下っ端貴族に押し付ければ良いものを外聞を気にして公爵家の長男である俺を婚姻相手に選んだ事であろう。
なぜ公爵家を引き継いだ弟に今話を持ち掛けなかったのかは分からないのだが、もしかしたら帝国の目の上のたんこぶである俺たちを一箇所にまとめて御しやすくしようという魂胆なのかもしれない。
確かに俺は世間からの評判はすこぶる悪い。 しかも女癖も最悪だという噂までここ最近では流れ始めてきているほどである。
そんな女好きの俺ならばクロード姫を押しつける事ができるであろうし、クロード姫の醜聞も俺の悪評で打ち消されるだろう、とか思ったのであろうが上手く行かなかったようだな。
どうやってクロード姫が女体化したことを突き止めたのかは分からないのだが、俺をここまで追い詰めたことはあっぱれと言っておこう。
「…………うん。 そうじゃな。 ここまで知られていてはいまさら隠す必要もないじゃろう。 そうだ。 カイザル君の言う通りじゃ。 近々儂の長男であるダグラスが婚姻するかもしれないという話をダグラス本人から聞いたような気がするなぁ……。 うん、確かに聞いたような気がする」
そして皇帝陛下はあえて濁してダグラス殿下の婚姻について話してくれる。
濁しているのは確定してしまうと、後々面倒臭い事になりかねないからだろう。
例えば俺が後で『ダグラス殿下が婚姻するんだってな』と言いふらした所で『そんな事は言っていない』と否定して、噂を潰す事ができる。 その事からも言っていないと言う証拠を取る為にこの会話も何らかの魔術具で証拠として録音しているに違いない。
「……それでは、かしこまりました。 クロード殿下とまずは婚約関係を結びましょう。 婚姻はその後お互いの家や本人間で問題がないと思えた時にでもまた。 しかしながらこの私のおかげでダグラス殿下の婚姻が決まるというのも感慨深いものがありますね」
「はははは、そうじゃのう。 全くじゃ。 ははははははははっ」
そして俺は皇帝陛下に向かってクロード姫との婚約を結ぶのだが『俺のおかげでダグラス殿下との婚姻が決まった』という事を強調して会話をしていく。
これで向こうは俺に大きな借りが一つできたと思って良いだろう。
当初の予定では借りなど作らずにクロード姫を俺に押し付けようとしていたんだろうがそうもいかない。




