そのドリル引っこ抜くぞ
そう私がエミリーへ助けを求めるのだが、彼女は迷う事なく無理だと突っぱねてくるではないか。
読むジャンルはエミリーは魔術書で私は経営学や政事に関する本と違うのだが、同じ読書仲間であり友達だと思っていたのだけれども、どうやら友達と思っていたのは私だけみたいである。
「酷いっ! 私エミリーとは友達と思っていたのに、そう思っていたのは私だけって事だったのねっ!?」
「こらっ! 嘘泣きはおやめなさい。 友達じゃないとは言ってはおりませんでしょうに。 ですが友達ですら親同士が決めた婚約を無かったことにするのは流石に無理がありましてよ。 それに、貴女も私が何をどうしたところでどうにもならない事は理解しているでしょうに。 モーリー・ダビットソンの家は男爵家ではありますけど貴族には変わりないですし、カレンドールさんの家格は伯爵家で帝国の宮廷魔術師を代々輩出している名門でもありますし、カイザルに至っては公爵家ですもの。 無理無理の無理ですわ」
「そんな事は知っていますよぅっ。 絶対に分かっていてわざと言っているでしょうっ!?」
「初めに意地悪を言ったのは貴女ですよ? モーリー」
「それは、御免なさい」
確かに初めに意地悪な事を言ったのは私の方なのだけれども、だからと言って現実逃避をしたいところに現実をこれでもかと説明しなくても良いではないかと思ってしまう。
「それで、貴女はどうするんですの?」
「どうって言われても……従うしかないですよ。 そもそも先程エミリーが説明してくれたように私の家、ダビットソン家と向こうの家格がそもそも違い過ぎるのと、私には上に二人の兄がいますからね。 もう親のおもちゃ状態ですよ。 だからこんなふざけた婚約内容でも簡単に決めちゃうのよ」
それが嫌で学業も必死に勉強して、頑張って成績も上位をキープして来たのだけれども、それらも結局は無駄な努力だと思うと何だか一気に気力がなくなってくる。
「それでも、本を読んでいる時は現実の事は考えず本の内容だけを考えていれば良いので、良い現実逃避になるから今もこうして読んでいるんだけれども」
それでも不意に襲ってくる漠然とした不安に押しつぶされそうになる。
「この際ウジウジしていても何も解決しませんわっ!! こうなったら直接カレンドールさんへ聞きに行けば良いのですわっ!! どうしてカイザルのようなクズの元へ婚約を取り付けに言ったのかとっ!!」
何いきなり言い出すんだこのドリルは? とは思うものの、後頭部でギュルンギュルン回転している(ように見える)ドリル(髪型)から察するに本人的には『良い事思い付きましたわ、わたくしっ!』とか思ってそうなのが手に取るように伝わってくるので、思わず『他人事だと思って適当言いやがて。 そのドリル引っこ抜くぞ』と思ってしまうのは致し方ない事だと私は思います。
後が怖いので決して口には出さないけれども。