半年ロムれ
「よせ。 こんな小物にいちいち突っかかっていたらキリがないだろう? ただ、お前達の気持ちは嬉しく思う」
「そ、そんな……嬉しいだなんてっ」
「そのお言葉さえあれば私はこのゴミの失礼な態度にも耐えられるわねっ」
そして割と冗談ではなく俺の許可さえあればエミリーを躊躇いなく殺しそうな二人を俺はなんとか宥める事ができて一安心するのだが、言葉一つで丸め込まれるあたり有難いのだが、それはそれで詐欺などに引っかかりそうで不安だ。
その内壺や絵画を買わされなければ良いのだが……。
「ちょっとアナタ」
「はい、何でしょうか?」
しかしながら、何とか二人を宥めることができた事は良かったのだが、今度は目の前のエミリーが俺を殺さんばかりに睨みつけながら話しかけてくるではないか。
正直言って面倒くさいし、俺の事が嫌いならばはっきり言って無視してほしい。
「……スルー出来ないなら半年ロムれよ」
「……何ですの?」
「いえ、何も」
「フン、意味わからない言葉を喋らないで下さいまし。 アナタの低脳さがバレましてよ? あ、知能が無いから変な言葉を使ってしまったのですわね」
聞こえない程度に喋ったつもりだったのだがどんだけ地獄耳してんだよ。
流石に意味までは理解していないだろうが、それでもニュアンス的にあまり良い言葉ではない事は伝わったのかネチネチと俺に嫌味を言ってる。
これはもうそれこそ荒らしはスルー精神でやり過ごすしかないと、ありし日のネラーよろしく無心の心でやり過ごそうとし始めるのだが、エミリーはまだ言い足りないらしく『バッ!!』っとセンスを閉じて俺に向けてくるではないか。
知能の低さよりも扇子を人に向ける行儀の悪さの方が恥ずかしくないのだろうか?
「そんな事よりも、先ほどアナタわたくしの事を『小物』と言いましたわよね?」
「いえ、言ってません」
「フン、良いでしょう。 どうせこのあとクロード殿下の手によって無惨にもボロ雑巾のようにされるようですし、今回のところは見逃して差し上げましょう。 しかし、今日のわたくしの邪魔をした瞬間、ぶっ潰して差し上げますので肝に銘じておく事ですわ」
そして言いたいことだけ一方的に喋ったエミリーは満足したのか俺の元から去っていく。
もしあの髪の毛がドリルならば感情の起伏によってギュルギュルと回転していそうだな、と思いはしたが口に出さなかった俺を誰か褒めて欲しい。
「カイザル、闘技場へ行くぞ。 逃げるなよっ! ブリジットよ、一秒でも早く君をその地獄から助け出してやるからなっ!」
そして、エミリーに絡まれている間に黒板に書かれた休校とその理由を確認したクロード殿下が今から決闘をする気満々のテンションで俺を闘技場へ来るように言うと、俺の返事を待たずに教室を出て闘技場へと向かうではないか。