金色の大きなドリル
「いや、逃げねぇよ」
「はん、口では何とでも言えようっ!! 首を洗って待っていろよっ!! 次会う時がお前の最後だっ!!」
そしてクロード殿下は明らかに三下の悪役が言うようなセリフを吐いた後、俺の前から消えていく。
どうせ教室で会うのだからそんなイキらなくても良いのに、とは思うものの、おそらくこういう無意味な行為や恥ずかしい行為をその場の勢いとテンションでやってしまうのが思春期であり青春なのだろう。
そうなると俺はクロード殿下と青春を謳歌していると言えなくもない、のか?
いや、あれは青春ではなくクロード殿下の頭の病気が治った時に黒歴史として抹消したくなる人生の腫瘍となるだろう。
「おはようございます。 さっきぶりですね。 それで、次会う時が最後とのことでしたが?」
「……う、うっ、うるさいっ! 黙れっ! 考えればその『次』が決闘を指しているのが分かるであろうっ!! そんな事も分からないからお前はクズなんだっ!!」
クロード殿下にも羞恥心という感情はあったようで、顔を真っ赤にしながら手で追い払おうとする。
そして俺はクロード殿下の席の近くで居座る理由もないのでそのまま自分の席に座るのだが、なぜかカレンドールの席が俺の隣になっているではないか。
カレンドールは担任にいくら袖の下を渡したのか、もしくは家の権力を使ったのか、はたまたその両方であるのか。
きっと知らない方が良い事もあるのだろう。
そんな事を思いつつ帝都外へと避難した担任の顔を思い浮かべながら心の中で合唱をする。
因みに本日我がクラスで登校しているのはクロード殿下、俺、ブリジット、カレンドールに、代々魔術師の家系でもあるアーバン家の令嬢、エミリーの五名のみである。
エミリーの場合は「竜の鱗一枚でも拾えれば儲けものですわ」と呟いていたので、あそこの家系は自分の命よりも魔術の深淵を覗き込む事を優先してしまう奇特、ではなくて変態、でもなくて、少しだけ、そう、ほんの少しだけ価値観がずれている家系なのだろう。
前世での知識で魔術の知識欲は人一倍という設定は頭にあったのだが、まさか自分の命よりも素材集めを選ぶとは思わなかった。
だからこそ、帝国一の魔術師の家系でもあるのだろう。
因みにエミリーは金色の大きなドリル(のような巻髪)を二本頭に装着しているのだが、この髪型はどうやっていつもセットしているのか地味に気になっていたりもする。
そして、担任ですら帝都外へと避難している現状況で授業がある訳が無く、当然のように黒板には『本日ドラゴンの接近により休校』という張り紙が貼られていた。