強く生きてほしい
ちなみにドラゴンの怖さを知っている冒険者などは基本的に殆どの者が帝都から離れて行っているらしいと教えてくれる。
冒険者ともなると一つのミスがそのまま死に直結してしまうので一般人と比べればやはりそこの判断はシビアなのだろうが、生まれ育った街を離れるというのは何だか少しだけ寂しいと感じてしまう。
もちろん根無草たちも多いからこそなのだろうし、彼らの気持ちがわかる分何だか複雑な気分である。
しかしながら今はこの事よりも俺は『何故カレンドールとブリジットはこの事を知っているのか?』という疑問の方が大きいのと『流石にドラゴンが三頭も帝都に向かっているとなれば腐っても皇族であるクロード殿下であっても帝都から離れているであろうし、今日の決闘も無くなっているのでは?』という事の方が気になっている自分が言える立場ではないのだが。
てか、この状況でまだクロード殿下が帝都にいるということは、そういう事なのだろう。
それはそれでご愁傷様である。
そんな事を思いながら学園へと向かうのだが、やはりというか何というか生徒の姿が極端に少ないことが馬車の中から見てもわかる。
これが貴族と平民との差、情報の価値を知っている者と知らない者の差、そしてそもそもその情報を知っている者と知らない者との差でもあるのだろう。
そして、やはりというか何というかクロード殿下は登校しており、校門前で馬車から降りた俺を見つけるなり「ドラゴンを言い訳にして逃げるかと思ったが、逃げずに登校したことは素直に褒めてやろうっ!!」と絡んできたのでとりあえず無視して教室に向かう。
ちなみにクロード殿下曰く、クロード殿下の兄はドラゴンが帝都に向かっているとの知らせが来た瞬間に帝国の端にある別荘へ尻尾を巻いて逃げたと聞いてもいないのに話してくれた。
何だろうか、少しばかり可哀想だと思えてくるのと、その意味を理解できない程の知性で逆に幸せだなと思ってしまう。
きっとクロード殿下は馬鹿なんだろう。 可哀想に。 この病気は死んでも治らないが似た症状の厨二病の場合は完治する場合もあるので諦めないで強く生きてほしい。
そして、これは実の親から少なからず『兄のスペアにもならないからこのまま死んでくれても別に構わない、何なら死んでくれた方が好都合』と思われているという事である。
俺だったら、クロード殿下くらいの歳にこんな扱いを受ければ立ち直れないくらいに凹んで鬱になる自信しかない。
「まぁ、強く生きろよ?」
「何だ急に。 馴れ馴れしいではないか。 気持ち悪い」
そう思えばこそ、多少の暴言や中傷など全然耐えれる。
「お前も苦労してんだな。 うんうん分かる、分かるよ。 そしていつか真実を知って潰れそうになった時は、俺だけはお前の味方だという事を思い出してくれ」
「だから、何でこんなに馴れ馴れしいんだ? 気持ち悪いと言っておろうっ!! あと決闘は逃げるんじゃないぞっ!!」