遠慮という物が無くなっている
それを避ける為に俺は息を殺して朝食を素早く食べ終え席を立とうとする。
「どこへ行く?」
そんな俺を見た父親は苛立ちを隠す素振りも見せず席を立とうとする俺へ話しかけてくる。
「魔術学園へ行く準備をしに、一度自室へ戻ります」
「……ちっ、好きにしろ。 だが、魔術の才能も無いお前は父親である俺の息子というだけで多額の費用を払ってるお陰で魔術学園へ通えることができるという事は忘れるなよ? 本来であればお前ごときが通っていい場所ではないのだからな。 すべては俺の血筋と財力のお陰であり、決してお前に才能があるからではない」
「分かっております、父上」
「分かればよろしい。 くれぐれも弟や妹たちの邪魔だけはするなよ」
屑が。
そう心の中で呟きながら俺は席を立つのであった。
◆
学園へと通い始めて一か月、それは同時にブリジット・モーデルと席が隣同士になってから一か月という事でもある。
一か月も隣り合わせに毎日過ごせばブリジットという女性の人となりも分かってくるというものであるのだが、ブリジットの事が分かれば分かるほど俺の頭の中には疑問が大きくなってくる。
少なくとも今まで感じて思ったことは、ブリジットは正義感が強く曲がった行為が嫌いで故に俺の事も当然嫌いであるという事である。
しかしながらその様な正義感の人一倍強い彼女がならず者達を雇ってスフィアを襲わせるような事をするのだろうか?という事だ。
たった一か月、しかもただ隣になっただけである俺ですら、彼女はそんな事をする女性ではないと断言できるくらいには、彼女は分かりやすいくらいに真っすぐなのだから。
ならば彼女ではない別の誰かが、スフィアをならず者達に襲わせて、その罪をブリジットに擦り付けたという事なのであろう。
そこまで考えた俺は溜息を吐く。
「私の顔をじろじろ見るだけでなく、溜息を吐くとは喧嘩を売っているのか? 貴様。 売っているのならば今すぐにでも買ってやるぞ」
「そんなまさか。 ブリジットさんが溜息を吐いてしまう程お綺麗過ぎるだけで、故に思わず見とれてしまっただけでございます。 喧嘩を売っているなど天に誓ってございませんよ」
「ちっ、口だけは達者な奴め。 いつか貴様のその尻尾を捕まえて頭から真っ二つに叩き切ってやる」
そしていつもの様にブリジットが俺へ突っかかって来て、それを俺が躱すのだが、にしてもブリジットの口調がここ最近遠慮という物が無くなっている気がするのだが気のせいであろうか?