幻聴
「……ん? カイザル、お前今俺に暴言を吐いたか?」
「いえ、言っていません。 クロード殿下に対してそんな言葉を使う訳ないじゃないですか」
「ふむ、それもそうだな。 やはり俺の思い違いであったか」
「バカかよコイツ」
何だかまだ幻聴が聞こえてきているようだが、おそらく俺が疲れているだけだろう。
それよりも今はこんなゴミ屑の事などどうでも良い。 カレンドールの事を優先になければ。
「すまんな、クズの相手をしてしまい話を途中で折ってしまったようだ。 しかしながらカレンドールはカイザルを何故そこまで持ち上げるんだ? それに、まるで俺が皇帝を継ぐのは適さないみたいな言い方は何だ?」
「当たり前の事が分かっていないようだから言ったまでよ。 それの何が悪いというのかしら? そもそも貴方の皇位継承権は第二位であり順当に行けば貴方のお兄様が皇位を継ぐはず。 なのにそのその自信はどこから来るのかしら? そして、私の婚約者であるカイザル様の事を『クズ』だと申されましたが、他人の婚約者に対してクズと言う方がクズなのでは?」
「何を言っているんだ? カレンドール。 この俺があの愚兄よりも劣っているとでも言うのか? あの愚兄であれば低脳すぎて勝手に継承権から外される事だろう。 それに今現在あの愚兄を引きずり堕とす算段は出来ているからな」
そして俺がそう言うと、何故かカレンドールは俺の事を生ゴミに集るゴミ虫のような目を俺に向けてくるではないか。
その目線を見て、ここまでカレンドールは洗脳されてしまっているのかと、カレンドールを洗脳した犯人であるカイザルを睨みつけるのだが、前回のように俺は感情のままカイザルへ決闘を申し込んだりはしない。
「カイザル、ブリジットだけではなくカレンドールまで洗脳して……どういうつもりだ?」
「いや、ですから俺はブリジットもカレンドールも洗脳はしていないですよ。 むしろ本当に洗脳だと言うのであれば解いて欲しいくらいです」
流石のバカで頭の弱いカイザルであってもそうやすやすと本当の事は言わないか。
しかしながら明らかに、あれほどカイザルの事を嫌っていたブリジットとカレンドールが立て続けでカイザルに対して好意を寄せ始めるなど洗脳していますと言っているようなものではないか。
そこらへんやはりカイザルが低脳である故であろう。
そして俺はカイザルと違い知能は高いので同じ失敗はしないのである。
「ならば一週間後、今一度決闘をしようではないか」
「は? 嫌ですよ」
確かに俺は前回の失敗を踏まえて決闘をしないのだが、それは『今』しないだけである。
そもそも前回の失敗は決闘に勝った後の事を考えていなかったのが失敗の原因であるのであれば、次は決闘に勝った後を想定してあらかじめ準備をして挑めば良いだけの話である。
「では、一週間後の放課後まで首を洗って待っているがよい」
「いや、だから嫌だって言っているだろカス」
「うん? 今暴言が聞こえたような──」
「は? クロード殿下にそんな言葉を使うわけないじゃないですか。 後決闘は嫌です」
「では俺は来週闘技場の使用許可を取ってくるから、せいぜい残された時間で少しでも強くなるように鍛錬でも何でももがいているがよい」
そして俺はそうカイザルに言うと来週の放課後に闘技用の使用許可を取るために職員室へ向かうのであった。