一体誰のお兄様だろうか?
「な、何でって……闇ギルドは、悪い組織で……平和を脅かす存在だから……その、私が倒そうと……」
そう、私は何とか絞り出すので精一杯であった。
むしろ今この場では私の考えこそが異端であり、闇ギルドは悪だという私の価値観が崩壊しそうになる。
「はーーぁ……っ」
そんな私を見たお兄様は、心底がっかりしたような、出来の悪い生徒の相手をするような表情で深くため息をつく。
「カレンドール……俺は言わなかったか? 闇ギルドはこの領地の平和の為には必要だって、言わなかったか?」
「いえ……あの……その……い、言いました」
「そうだよね? 俺は確かにカレンドールに言ったよね? 魔術の才能はあっても地頭の方はそこまで良くなかったのかな? それならば仕方ないね」
そしてお兄様は私の返事を聞くと満足したように、そして私を見下すように話始める。
私が今まで知っている、正義感の強いお兄様はおらず、私にはどんな時でも優しく微笑んでくれるお兄様はおらず、巨悪は必要だというお兄様、私に向かって見下すような表情を向けてくるお兄様が私の目の前にいた。
私の目の前にいるこのお兄様は、一体誰のお兄様だろうか?
「そして、俺が闇ギルドマスターに剣を渡している事がバレてしまっては、たとえ妹であっても生かしておけないんだ。 恨むなら無駄な正義感からくる悪を倒したいという欲求を制御できず、首を突っ込んではいけないところまで来た自分自身を恨むんだな」
そしてお兄様は妹である私に向かってそう言う。
その言葉に躊躇いなど見られず、私を殺すのが当たり前だと思っている事が窺える。
あぁ、私の知っているお兄様はもうこの世にはいないんだ……。
そう思うのと同時に目の前のお兄様だった人物は薬を三錠程口の中に放り込むと、三回ほどガリガリと錠剤を砕くように噛んだ後飲み込むのが見える。
今更あの薬が何なのか気づかない程馬鹿ではない。
だからこそお兄様は本気で私の事をこれから殺しに来るんだという事がわかった。
もう、どうでも良いや。
あの薬を飲んだお兄様は氷の華を一度に五つも咲かせるのだ。
どう足掻いても今の私では薬を飲んだ状態のお兄様に勝てるわけが無い。
だったら、せめてお兄様が怪我をしないように、私から身を引こう。
そう思うのだが、それでもやっぱり死にたくない、と思ってしまう。
「誰か……助けてくださいっ」
それは誰に向けて言ったのか、神なのか、それとも他の誰かに向けて放った言葉なのか、結局、最後は他力に頼るあたり私らしい最後だったなと思い、お兄様の攻撃魔術が当たるのを瞼を閉じて待つのだが、一向に当たる気配がないため、何が起きているのかと瞼を開けると、そこには黒い軍服のような衣服に、黒い仮面をつけた男性の姿がそこにいた。
「っぶねぇな。 死にたがりかよ」
「は、はえ? え? な、何で……?」




