お兄様と二人でならば
まただ。
また私は自分の力を過信してしまい、勝てない相手に挑んでしまった。
しかも今回は模擬戦でもなければ表側の人間でも、貴族でも、学園の生徒でもない、裏家業の人間相手にである。
カイザルの時は、まだ彼が表側の人間であり、腐っても貴族でありあれでも学園の生徒であるから、あの程度で終わったのだ。
それでも、もう二度とカイザルには近づきたくないと思わされる程叩きのめされ、軽いトラウマになってしまった程なのだが、今回ばかりはそれだけでは済まない事だけは間違いがない。
良くて犯された後に奴隷に落とされ、最悪殺されるだろう。
それだけは、嫌だ。
私はまだ貴族として産まれて、何一つとして貴族らしい事をしていない。
それは、私がこの世に産まれてきた意味が無いに等しいではないか。
私はこの領地に住む民を、一人でも幸せにしたいという夢があるし、それこそが貴族としての生き方だとも思っている。
将来的には貧富の差をなくす事によりスラム街をなくし、子供が領地内どこでも笑って遊べるような、そんな領地にお兄様と一緒に作っていくのが私の小さい頃からの夢であったというのに、どこで狂ってしまったのか。
「へぇ、まだそんなに動けるんだ。 でも、痛みで吐きたいんだろう? 立つのもやっとなんだろう? 俺とお嬢ちゃんとは戦いにすらならないんだから、どうせ負けるのならば抵抗せずにさっさと諦めて楽になれば良いのに。 なぁ、お前もそう思うだろう?」
「……は? お、お兄様? な、なんでここに……」
そして闇ギルドマスターが私の後ろに問いかけるように話すので、後ろを振り返ってみると、そこにはお兄様が立っていた。
「なんでって、そこの闇ギルドのマスターから敵に侵入されて攻撃を受けているから、直ぐに来て敵を排除しろという命令を受けたんだよ。 そして、むしろ俺の方が『なんでここに』と言いたい。 何でお前がここにいるんだよ。 カレンドール」
しかしながら、これは逆に私に運が向いて来たのかもしれない。
お兄様と二人でならばあの闇ギルドマスターを倒せる可能性が出てきた。
「お、お兄様っ! 良いところに来ましたね。 私と一緒にあそこにいる闇ギルドマスターを倒しましょう」
「は? 何馬鹿な事言ってんだ?」
「……は、はい? ば、馬鹿なこと……ですって?」
「そうだ。 馬鹿な事だろう? 俺は侵入者を倒すように命令されてここまで来たんだ。 そして侵入者はカレンドール、お前だ。 ならば俺が倒すべき相手はお前だろう。 何故闇ギルドマスターを倒す流れになるんだ?」