恐怖心が雑音のようにチラついてくる
そして闇ギルドのマスターは私がこの場所まで来れた事に危機感すら思っていないのか余裕の表情で私を見つめてくる。
初めはただの小娘だと見下されているのだと思っていたのだが、そもそもここまでくる時点で下にいる奴らを倒さなければならない時点である程度の強さは証明されているようなものである。
であるにもかかわらず、まるで街娘が訪れたような態度をしている闇ギルドのマスターの態度に不自然さを感じてしまう。
「君はなぜこの俺が君に対して警戒をしていないか、そう思っているようだな」
そして、そんな私の感情を見抜いたのか、闇ギルドマスターが少しだけ意地悪そうな表情で聞いてきた。
その顔は、昼間だというのに少しだけ薄暗い室内ということも相まって、実に悪役然とした表情であった。
「そ、それは……」
まさかとは思うが、不意打ち要員として誰かがこの部屋のどこかに潜んでいる、または魔術陣を隠して設置しており奇襲ができるようにしているのかとも思ったのだが、他に誰かが潜んでいるようにも、魔術陣があるようにも思えない。
そもそもこの部屋には椅子とテーブルしかなく、引っ越したばかりでまだ家具も何も揃えていないと言った感じの部屋であるため人や魔術陣を隠す場所がないのである。
その事からも闇ギルドがつい最近ここへ拠点を移したという噂は本当なのだろう。
一体なぜ、これほどの闇ギルドが拠点を移さなければならなかったのか気になる所なのだが、今はそんな事よりも目の前の男に集中するべきだ。
いくら、相手が強かろうと、何か策を練っていようとも、私の方が強いに決まっているのだから、恐れることなど何もない。
そこまで思った所で、私はこないだ行ったカイザルとの模擬戦を思い出し、ほんの少しだけ恐怖心が雑音のようにチラついてくる。
しかしながら、あの時はカイザルが異常なだけであって、そうそうあのようなイレギュラーな事があるわけがないし、あっていい筈がない。
「まぁそうカリカリするんじゃねぇよ嬢ちゃん。 殺気がダダ漏れじゃないか。 せっかちな女は嫌いじゃねぇが、それはベッドの中だけの話だ。 とりあえずこのまま戦うのも味気ないとは思わないか? 少しだけ話そうや」
「残念ね。 私はあなたとは何も話すつもりはないわ」
きっとこうやってお兄様もこの男の口車に乗せられて騙されたのだろう。
こんなやつの言うことを聞く必要も無ければ即刻ぶっ潰していいレベルである。
そして私は相手の返事を待たずに魔杖に魔力を込め、杖先で魔術陣を描き魔術を行使する。