私が嫌いな人物像
そう言うとブリジットさんは私の元から、心底興味がなさそうといった態度で去ろうとする。
その態度の通り、実際興味がないのだろう。
「ま、待ちなさいっ! まだ私の話は終わっていないわっ」
そして私は、そんなブリジットさんを必死に引き止める。
まさか、私が魔術についてブリジットさんを必死になって呼び止めるような未来が来ようとは、さらに言えばブリジットさんよりもカイザルに聞きたいと思っているなど少し前の私では想像もできなかった未来である。
そんな状態になっているにも関わらず、私のちっぽけなプライドのせいでカイザルに直接話しかける事ができないのだから情けない。
こんな何の役にも立たないプライドや、学園ランキング一位という称号など捨てる事が出来ればどれほど楽か。
しかしながらそんな何の役にも立たないプライドでも捨ててしまったら私は立ち直れないような気がして、捨てるのが怖いのである。
なんと小心者で、卑怯者で、ダサいのだろう。
これでは、私が嫌いな人物像そのものではないか。
そう分かっているからこそ、それが余計に私を惨めにさせる。
「何ですか? 氷の華くらいで、他に何かあるんですか?」
そんな私に対してブリジットさんが面倒くさそうな態度を隠す素振りも見せずに呼び止めてきた私に返答してくる。
以前の私であればランキング下位の人物、それも一桁ではなく二桁のランクであるブリジットさんからこんな態度を取られれば怒っていた可能性もあるし、怒らなくても心の中では見下していただろう。
今思えば何とちっぽけな人間であったのだと思い知らされているようだ。
「その、氷の華を咲かせる魔術、【氷華】なのですが、なぜ複数も咲かせる事ができるのでしょう? 氷魔術が得意な家系である私ですら現段階で一つしか咲かせる事ができないというのに、前回の異常な強さもそうですが、何か特別な事をしているのかしら? それこそ、変な薬とか、飲んでいるとか?」
「そんな薬、飲むわけないでしょう。 あんなものは所詮は紛い物ですし、一度飲んだら最後、初めこそは強くなったかのような錯覚を覚えますが、所詮は命の前借りに過ぎませんし、依存性が高いので止めることすらできなくなって気づいた時にはもう身体はボロボロで取り返しのつかない状態になってしまうのがオチですよ。 それに、そんなことしなくても私にはご主人様から教えていただいておりますのでそんな紛い物なんか使うのよりも強くなれますし、むしろそうなればデメリットしかない薬を使うなどしませんよ。 だって私は一秒でも長くご主人様と一緒に生きたいのに寿命を一気に短くしてしまう薬なんか絶対に使わないですよ。 それこそご主人様と私との間に産まれた子孫、曾孫の顔を見るまでは絶対に生き延びてみせるという目標が私にはありますし。 あ、それと夢という事ならば私はご主人様と一緒に──」
どうやら私はブリジットさんの何かを刺激してしまったようで、先程までの面倒くさそうな態度とは打って変わって生き生きとした表情で怒涛の勢いで話し始める。