馬鹿らしくなる
「カレンドールさん」
「は、はい……っ」
「これで俺の奴隷達がしでかした事を許して欲しいとまでは言わないけれども、どうかこれで今回は穏便に済ましてもらえればありがたい」
俺が声をかけるだけで恐怖に怯えているのが見て分かるので、できるだけ刺激しないように話すと、俺はカレンドールさんにも解るように一から魔術を丁寧に組み込んで行き、修練場を氷の華で埋め尽くす。
この世界で世間に公開されていない魔術の術式を見せるという事は、財産の一部を分け与える事に等しい。
カレンドールさんならばその事は当然知っているだろうし、氷系魔術を代々受け継いでいる家系である為先程見せた魔術の価値もちゃんと理解してくれるであろう。
とは言っても初級魔術をバグを使って重複させただけだのだが、ゲームでは初級魔術一回分のダメージしかなく、エフェクトが豪華な初級魔術程度の技である。
この世界では少しばかり驚かれるかもしれないのだが、それだけの技である。
所詮は初級魔術には変わりないのだしこの程度の魔術であるのならばカレンドールさんに見せも大丈夫だろう。
そして何よりもこの術式を見られたところでまず解読はできないとも思っているので俺がやった事といえば手の内を一つだけ晒した事と、こういう術式があり、初級魔術を重複させて発動できるという事が知られる事くらいである。
そして俺はブリジット、そしてガレットと共に修練場を後にするのであった。
◆
私は今、何を見せられたのだろうか?
理解はできているのだが、理解できない。
いや受け入れる事ができないと言ったほうが正しいのかも知れない。
あの、魔術など碌に何一つ扱えるものなどないし魔術のセンスの欠片も無いと思っていたあのカイザルが、見たこともない、0と1という見たこともない文字二つでできた術式を使い、修練場を氷の華で埋め尽くしたのである。
あり得ない。
あり得るはずがない。
そう脳が判断するのと同時に、私に見えやすいように一から術式をゆっくりと見せながら確かにカイザル本人が魔術を発動し、そしてその発動した魔術が修練場を氷の華で埋め尽くす過程を見ているのだ。
カイザルどうこうではなく、こんな事など人間が扱える魔術の範疇を超えているではないか。
お兄様が五個同時に氷の華を咲かせて凄いと思っていた私が馬鹿らしくなる。
そして、それと同時にガレットとかいうカイザルの奴隷が言っていた事は嘘ではないのかもしれないとさえ思い始めてしまう。