分からされた
今回はしっかりとブリジットさんの動きを見ていたはずである。
足捌きも、体重移動も、身体の動きも、木刀の切先の動きも。
二度と、先程と同じような失態はしないと、尚の事普段よりも集中してブリジットさんの一挙手一投足を見ていたはずである。
にも関わらず、ブリジットさんの木刀の切先は私の首元にあった。
はっきり言って何が起こったのか、何をされたのか、私は全く理解できなかった。
そして、理解できない自分自身にたまらなく腹が立つ。
私にできる事はただ、ブリジットさんから離れる事だけで、それが分かるからこそ、また腹が立つ。
「まさかとは思いますがカレンドールさん……私の攻撃が見えていないのですか?」
「……っ!」
「まさか本当だったとは、呆れて物が言えないとはこの事ですね。 この程度の攻撃すら反応するどころか見えてすらいないとは……。 私のご主人様に喧嘩を売ったのですから、それなりにできるとは思ってはいたのですが、ここまでレベルが低いとは思っても見なかったですよ」
「そういうあなたこそ、それほどまでの力を持っていながら、どうしてカイザルなどというクズの奴隷になっているのか、私にはまったく理解できませんね。 ブリジットさんほどの、これほどまでの剣術があるのならば他にもっと相応しい人がいると思うのですが……。 そもそも、ブリジットさんは学園の能力テストは手を抜いていたという事ですね……」
悔しい。
私が今まで学園で一番だと思っていたのは、このブリジットさんが手加減していたからこそ手にする事ができた地位だったということではないか。
それなのに私は今までそんな事も分からずに家族にさも私が学園で一番強いのだとほざいていたのだ。
こんな事実、知らなければ良かった。 知らないままの方が良かった。
たった二回。
されどこのたった二回の攻撃で私とブリジットさんとの力の差が大きく開いているという事が否が応でも理解させられた。
分からされたのである。
私ではブリジットさんには勝てないという事を。
「はい。 ご主人様が目立ちたくないと言うので、去年よりも少しだけ順位を落としてテストは終わらしましたよ。 そもそも私がご主人様の奴隷になる理由ですが、私なんかよりもご主人様の方が圧倒的に強いから、そして、ご主人様はいつも自分を犠牲にして弱者を救おうとしているからです。 ならば、戦闘面では力にはなれないかもしれないですが寄り添ってあげて、傷ついた心を癒やしてあげたいと思うのは当たり前の事ではないでしょうか? はい、三回目です」
そうブリジットさんは話し終えると、次の瞬間には目の前に現れ、そして当然のように私は反応する事ができず、ブリジットさんの木刀の切先は私の首元にあった。