まだ私は倒されてない
そしてあろうことかカイザルは模擬戦にすら興味がないのか修練場の端に行くと壁にもたれるようにして眠り始めるではないか。
「バ、馬鹿にして……っ」
そしてカイザルは気持ちよさそうに寝息を立て始める。
「それでは、我がご主人様のご命令通り適当に遊んでから良いところでカレンドールさんを倒してこの茶番を終わらしましょう」
「あぁ、そうだね、ブリジット。 それじゃあ僕はご主人様に膝枕を──」
「抜け駆けですか? ガレット」
「抜け駆けなんて人聞きが悪いではないか、ブリジット」
「……五分交代でどうです?」
「……良いだろう。 ではまず僕からで良いかい?」
「……良いでしょう。 最後、ご主人様を起こして差し上げるのは私という事で良いですね?」
「ぐぬっ、ま、まぁ……僕から言い出した事だから今回はブリジットにその役目を譲ってあげよう」
二人は私が目の前にいるというのに尚も、あのクズに膝枕をするという事を言い合っているではないか。
今この瞬間襲っても模擬戦自体はすでに開始されているため何ら問題はないのだけれども、私はあのクズとは違うため正々堂々と真っ正面からブリジット達を倒すまでである。
「それでは、学園ランキング一位のカレンドールさん。僭越ながらまずは私、ご主人様の忠犬であるブリジットが相手をしましょう」
「本当、待ちくたびれたわね。 ですが、その余裕がどこから来ているのかは分かりませんが、そうしていられるのも今の内……」
「はい、これでカレンドールさんは一回負けたことになりますね。 ご主人様より『適当に遊んでから』と命令されていますのですぐに倒す事はしませんが……適当に遊んであげましょう」
何が起こったのか、私にはまったく理解する事ができなかった。
ただ、分かることはブリジットさんの持つ木刀の切先が私の首元にあるという事だけである。
「っ!? い、一体何が起きたというのかしらっ!?」
その事に気づいた瞬間私は一気にブリジットさんから離れて距離を取る。
まったく気づけなかった。
まったく反応できなかった。
あのまま攻撃をされていたら間違いなく私はブリジットさんに倒されていた。
しかしながらまだ私は倒されてない。
それは即ち、私はあの瞬間ブリジットさんに手加減をされたという事に他ならない。
「どうやら……私はブリジットさんを見くびっていたみたいです。 その事は謝罪しましょう。 しかしながら先ほどの一撃で私を倒さなかった事は……」
「倒さなかった事は、何でしょうか? これで二回目ですね」
そしてまた、先程と同じように私の首元にブリジットさんの木刀の切先があった。




