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ヒッチハイク

作者: 檸檬koY

とある県境にある峠。

真夜中に車で走っていると、道路の脇に、女性が立っている。ヒッチハイクをしているらしく、通りがかった僕にハンドサインを送ってきた。


不気味なので通り過ぎようとしたが、その人の見た目が若かったこともあり、心配で車を止めた。

あえて言っておくが、下心があったわけでわない。夜遅くに若い女性がひとりで歩くのは何かと危険だ。


「どうしました?」


「すいません。峠を下ったところまででいいので、乗せて行ってくれないでしょうか。」


「いいんですけど。こんな場所でひとりで何をしていたんです?」


女性は、恥ずかしそうに答えた。


「歩いてどこまでいけるかを試していたんです。いつの間にか、夜になっちゃって。それで一人途方に暮れていたんです。」


「まあ分かりました。どうぞ、後ろに乗ってください。」


女性を後部座席に乗せて、僕は車を走らせた。


何か話しかけようとしたが、とてもそんな雰囲気ではない。女性は不安そうな目で、窓の外を眺めていた。

無音なのも気まずいので、とりあえずラジオを付ける。ばかばかしくてつまらない深夜放送に、いくばくか心が救われた。



それから30分もかからなかったと思うが。

峠を下り終わるとすぐに、女性は声をあげた。


「ここでいいです。降ろしてください。」


「いいけど・・・泊まる場所とかないよ。もう少し乗っていけば市街地にでるから。」


「いえ、いいんです。ここで降ろしてください。」


女性があまりにも強気なものだから。僕はその指示に従い、車を路上に止めた。


「すいません、ありがとうございます。その、すいません。こんなものしかないのですが、受け取ってください。」


差し出されたのは一万円札だった。


「そんな、いいよ、別に。」


「いえ、ぜひ受け取ってください。」


女性は僕に一万円札を押し付けると、そのまま駆け出した。


よほど急いでいたのか、四足歩行で走るのが見える。



ーーあの山では、昔っから化かされるっていうもんな。まあ、薄々わかっていたけど。若い女性の姿をされちゃあ見過ごせないよ。



いつの間にか、持っていた一万円札も木の葉に変わっていた。漂う綿菓子のような甘くて良い香りーーそれはカツラの葉だった。



人助け。いや、動物助けも悪いものではないな。

そんなことを思いながら、静かな夜道を再び走り出した。甘い香りと一緒に。

読んでいただき、ありがとうございました。

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