四 アンダヤム山脈
翌朝。
ニユ達は、アンダヤム山脈を目の前にしていた。
村で聞いた話によると、ここはかなり危険らしい。どうやら、『生きて帰って来た者は一人もいない』とか。
「入るよ」
「ええ」
でもそんな情報で怖気付く訳もなく、白山羊に跨る少女達は頷き合い、エジーが走り出す。
アンダヤム山脈というのは、大陸東側に連なる山々の事で、とても広い。
ニユ達が目指すのは、アンダヤム山脈の中でも最も高いとされる山だ。
傾斜は緩いものの、岩が多くて足場が悪く、それに標高が昨日の山と比べたら三倍はあるので、なかなか時間が掛かるだろうと思われる。
山に入ってから一時間。
木々に隠され見えないが、恐らく天辺はまだまだ。一体何分の一登っているのだろうか。
「……あっ。あれ、何だろう」
突然、ニユの目に飛び込んで来たのは、立派な建造物――、門であった。
背後でニユにしがみ付きっ放しのモイザも門を見て、首を傾げる。「こんな山中に門があるなんて、おかしいわね。行ってみましょう」
石造の門へ近付くと、どこからともなく声が聞こえた。
「其方は仙人に知恵を求める者か。そうであらば、この問題に答えて進め。そうでなくば、今すぐ立ち去れ」
しわがれた老人のような声に、ニユは答えた。「アタシ達は仙人さんに会いたい」
「ならば、この問いに答えよ。……クメロというのは、誰じゃ?」
投げ掛けられる質問に、ニユもモイザも首を捻る。
「クメロっていう人、知ってるかしら?」
「……なんか聞いた事あるけど、誰だったっけ」
これを解かなければ、仙人の元へは辿り着けない。
朧げな記憶を呼び覚まし、脳をできる限りに回転させる。
家族やメイドの名前を確かめる。違う。クメロなんていうのはいない。
知っている貴族の名前を全員思い出す。違う。貴族ではない筈だ。
「クメロ、クメロ、クメロ……」
何だか聞いた事はあるのだ。あるのだが、思い出せない。
「……仙人の名前じゃないかしら。こういう問題は大抵、その先で待っている人の名前を出すものよ」
ふと、モイザがニユにそう囁き掛けて来た。
「ああ」確かに、とニユは首肯する。
その可能性はある。だが正直、どうして聞き覚えがあるのかは腑に落ちないのだが――。
「試してみよう。……クメロは、この山に住まう仙人の名前」
一瞬沈黙があり、声が降って来る。「うむ。求めていた答えとは違うが、間違いでは、ない。第一の関門、クリアじゃ。通れ」
門がゆっくりと開く。
「……モイザ、冴えてるじゃん」
「当たり前よ。ニユよりは、賢いつもりでいるわ」
「名前で呼んでくれるの、嬉しい」
「…………」
そんな風に話しながら門を通り抜ける少女達に、再び声が掛けられた。「この先、第二、第三の関門がある。それを乗り越えれば、ワシの元へ辿り着けるじゃろう」
今の言葉で、理解できた事は三つ。
声の主が、仙人クメロである事。そして、まだまだ道のりが長い事。確実に、仙人が存在するのだという事。
確実に、希望は近付いて来ている。
「先へ進みましょう」
「うん」
第一の門を後にして、二人を乗せたエジーはこの先に待っているであろう第二の門へと、山を登り続ける。
「もう、揺らさないで白山羊! 落ちるわっ。落ちるったら!」
相変わらず動物慣れしないモイザの声が、山中に響いている。
それを苦笑で見つめながら、ニユは昼食を頬張っていた。
もう時刻は正午頃だろうか。生い茂る木々や店に広がる雲のせいで、あまりはっきりとは分からない。頂上へ近付くにつれ空気がひんやりとして来て、ニユは思わず身震いした。
「そろそろかしら? うち、もうこれ以上こいつに乗ってるの、耐えられないんだけど」
「……分かんないけど、声が言ってたには後二つ門があるらしいから、それを越えたら頂上じゃないかな」
一つ目の門を潜ってからは既に三時間近くが経過している。
さて、どこに次の門があるのやら。
そんな事を言っている時、目の前に一本の大木が現れた。
大木――そんな言葉で表して良いのかという程に巨大だ。恐らく王城より大きいだろう。迂回する事は恐らく不可能である。
「どうしよう」
と、困惑するニユは木の表面に違和感を感じた。
エジーから飛び降りて、木の皮に触れてみると――。
「ここが第二の関門じゃ。……其方は仙人に知恵を求める者か。そうであらば、この問題に答えて進め。そうでなくば、今すぐ立ち去れ」
再びしわがれ声が響いたので、ニユは心臓が止まるかと思う程驚き、後へ跳ね退いた。
「……またなの。いいわ、どんな問題でもうちが解いてあげる。さあ、言いなさい」
山羊から離れるなり自信満々に腰に手を当て、仁王立ちになるモイザ。
だが、そんな彼女達へ投げ掛けられた問いは、とても意外な物だった。
「アンダヤム山脈の中で最も高いこの山の標高は?」
一瞬絶句し、それから少女達は、ほとんど同時に叫んだ。
「そんなの、知らないよ!」
「そんなの、知る訳ないじゃない!」
最大の難問、それは、ニユもモイザも知る由のない、この山の標高であった。
「……無論、ヒントなしとは言わん。ヒントは、七百に最も近い素数メートルじゃ」
素数。それは、その数と一でしか、割り切れないという数の事。
この世界では主に数学というのが発達しておらず、その上皆が学ぶ物ではない。――ただの村娘であるモイザは無論、ニユもお手上げだった。
「……お願い仙人さん。もっとヒントを頂戴」
ニユが頼んでみても、仙人からの答えはない。もうこれ以上のヒントはないのだろう。
七百に最も近い素数、それを知る方法はただ一つ。
「仕方ない。……じゃあ、七百一で!」
ニユが選んだのは、かなり無謀な策である。一かバチか、七百に一番近い数字を言ってみたのだ。
「ニユ……!?」モイザが驚きと非難の視線を投げ掛けて来た。
全然違う可能性もある。でも、試してみるしかないではないか。
しばらく、場に沈黙が落ちた。
ニユの心臓が早鐘を打つ。間違っていたら最悪死ぬのではないか。それは嫌だ。もう仕方がない、運の神がいるのだとすればそれに願うしかない。
そして次の瞬間ニユの鼓膜を叩いたのは、なんとも静かな声だった。「……見事。正解じゃ」
「――え」
自分で言っておきながら、ニユは驚愕に震える。「ほ、本当?」
「本当じゃ。……第二の関門、クリアじゃな」
目の前の大木が真ん中で真っ二つに裂け、道が開ける。
安堵と喜びに顔を綻ばせ、エジーに飛び乗る茶髪の少女は赤毛の少女を呼ぶ。「モイザ、行くよ!」
ニユのすぐ隣で硬直していたモイザは、一言、「都合が良過ぎるわ。今といいさっきといい、こんなので良いのかしら」と漏らして白山羊に跨り直した。
こうしてあっさりと第二の関門を抜けた二人は、最後の第三の関門へ向かうのだった。
エジーは高山を登り、登り、ただひたすらに上を目指し続ける。
そして一際群がる木々の隙間を駆け抜けると、やっと開けた場所に出た。
「――――」
相変わらずの曇天の下、広がる光景を目にしてニユは息を呑む。
眼下一面の海。左右の山々。振り返れば美しい街並みと、遠くに水平線が見えた。
ドッゼル王国を一望できるこの場所こそが、アンダヤム山脈の高山、仙人の山の頂上である。
だが、ニユが驚いたのはそこではない。
辺りに、無数の無残な死体が散らばっているのである。
どれも叩き潰されたようで原型を留めていない。下草に乾いた血がこびり付き、周囲の絶景に似合わぬ地獄絵図だった。
「何よ、これ……」
黄色いコートを風に揺らしながら被りを振る赤毛の少女は、この惨状を前に小刻みに震え出す。「嘘……。死体。死体だわっ」
彼女にとっては人間の亡骸、それも無数の死体を見たのは初めてだろうが、ニユにとっては慣れっこ。それより気になるのは――。
「第三の、関門は?」
ここで死体が散乱している事は非常に不思議だ。だって何も関門らしき物が見当たらない。一体誰に殺されたのだろうか。
「驚いちゃいましたー? ひひっ。でも意外と冷静ですねー? みんなひえって言って怖がるのにざんねーん。きゃははっ」
首を傾げるニユの耳に、突然、ガサガサした、幼さのある声が届いた。
東方向へ向き直った少女二人は、それを見て絶句しかない。
海を背にして立つのは、いつの間に現れたのだろうか、とても奇怪な生物だった。
頭と思われる部分が向日葵で、その中央に、一つだけの大きな目玉が狂気的に輝いている。
そして腕部分はひょろ長い蔓のようになっているのだが、無数の棘が突き出し、なんともグロテスクだ。
それだけならまだしも、極め付けは蕪のように白く真ん丸な胴体部分、腹部と思われる場所に大きく開かれた口である。
それはもう、怪物としか言いようのない悍ましさだった。
「…………貴方は?」
「アテクシ? アテクシはフラワーちゃんでーす! えっと、アテクシ、第三の関門の試験官だそうでーす! 仙人様に戦えって言われたんでここにいまーす! きゃはっ。ちなみに、ここに散らばってる奴らは、アテクシが殺したんでーす! 恐ろしい? 身の毛がよだつ? 笑っちゃう? ひひっ」
そう言って全身を楽しげにくねらせる化け物――、フラワーは、けたたましく嗤う。
「あ、そうです! 仙人様にこう言えって言われてましたー! 『其方は仙人に知恵を求める者か。そうであらば、花の乙女に勝利せよ。そうでなくば、今すぐ立ち去れ』って。さあて、戦いますかあ?」
第三の関門。
それを通る条件が、この花の乙女――、フラワーに戦って勝利する事。
やっとそれだけ理解し、ニユは唇を噛んだ。
これは、魔獣より、今まで出会った亜人やらもしかすると魔人より、ずっと悪質な怪物だ。
姿形や性格も含め、悍ましさはトップクラス。でも戦わない訳にはいかない。
ここを通れば、きっと千人が待っているのだから。
「良いよ、アタシが勝負してあげる!」
叫び、跨っていたエジーから降りて棍棒を構えるニユ。そのまま走り出し、花乙女の頭を棍棒で叩き潰さんとする。
「わあ、怖いですー! びっくりしましたよー? きゃはははっ」
だが、次の瞬間化け物は、棘だらけの細い右腕でガッチリと棍棒を押さえ、一つ目玉と腹の大口で茶髪の少女を嘲笑した。
そして同じく棘だらけの左腕でニユの腰を叩き飛ばす。
ピンクのワンピースを着た腰から真紅の血を吹き出して、ニユが宙を舞う。地面に背中を強打し、一瞬目を回した。
立ち上がろうとする。立てない。腰が痛む。血が止まらない。
あの棘だらけの腕は、まるで金棒のように威力が強かった。痛い。痛い。でも戦いに加わらなければ。痛い。やっとこさ立ち上がって周囲を見回すと、モイザが激しいを繰り広げていた。
昨日の負傷はどうしたのやら、右に左に、コートを揺らしながらモイザが跳躍。フラワーが振るう腕の棘攻撃を鉈で押さえ、かつ体当たりで敵を吹っ飛ばす。
「うわあ。こいつ、なかなかやるじゃないですかー。あっちの茶髪娘とは大違いでーす! もっと楽しませて下さーい、ね!」
花乙女の攻撃が炸裂。両側から棘腕が伸びて来る。
それをモイザは後へ跳ね退いて回避。鉈で腕の一本を切り落とした。
「あんた、見た目に反して、意外と弱いのね」
「ムキーッ。アテクシは世界一可愛くて、世界一強くて、世界一芳しい乙女なんでーす! 侮辱、侮辱、侮辱ぅ!」
目を血走らせた怪物がモイザへ突進。そこへニユが割り込む。「悪いけど、貴方、臭いし醜女だからね?」
そう微笑むニユの棍棒が、直後、花乙女の一つ目玉を叩き潰していた。
「ぐえ」目の残骸が垂れ、頭部の向日葵の花が半分程散り落ちた彼女は激昂する。「よくもよくもよくもぉ! アテクシの美しい花を! 目玉を! 許せない、でーす!」
危ない、咄嗟に逃げようとするニユは、素早く伸びる一本だけ残った棘腕に体を絡め取られてしまった。
「やあっ、やあっ」棍棒を振り回そうとするが、押さえ付けている腕がきつく、なかなか上手くいかない。
「アテクシの美しいお目々を潰した小娘! 報いを受けるが良いでーす! ああ、美味そう。いっただっきまーす!」
棍棒を取り落とし、何の抵抗もできずにニユは花乙女の大口に一瞬で放り込まれてしまったのだった。
「ニユ!」赤毛の少女の叫び声が、聞こえたような気がした。
茶髪の少女が花乙女の大口に吸い込まれて行くのを見て、モイザは思わず叫んでいた。「ニユ!」
そして直後、彼女が咄嗟に思った事は『あの娘を助けなくては』だった。
どうしてそう思ったのか、分からない。
でもモイザは、もう走り出していた。
「うわー、美味しいっ。こんなに美味い人間久し振りでーす! ちょっとガタイは大きいですけど、やっぱ若い小娘はアテクシ好みでーす! あ、帽子の小娘、待ってて下さーい! アテクシ、すぐこいつ消化しますんでー。それまでお付き合いの程、よろしくお願いしまーす!」
腹の口で喋りまくる怪物の頭部を鉈で丸ごと落とす。そして鬱陶しい腕を切り飛ばし、モイザはフラワーを睨み付けた。
「うるさいのよ。ぺちゃくちゃぺちゃくちゃと。花乙女と自称するなら、それに相応しい行いでもしてみなさい。……あんたはただの醜い化け物だわ」
「ぐおおおおおお。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇ! お前のような小娘に、アテクシの何がぁ!」
怒りで震える怪物は、大口を開いてモイザを食おうとした。
「この時を待っていたのよ。馬鹿花娘」
微笑するモイザの鉈、それが大口ごと腹を引き裂いた。
山を木霊する、醜い絶叫。
血ではなくヌメヌメした水を撒き散らし、花乙女は漸く絶命したのであった。
「しぶとい奴だったわ。……と、そうだったわね」
裂けた腹の中、呻き、蠢く少女の姿がある。
それを引っ張り出してやらなければならない。「本当に、困った奴だわ」溜息を漏らし、モイザはニユの足に手を掛け、重い体を引き抜き始めたのだった。
熱い。熱い。意識が遠のく程、体が燃える程、熱い。尋常でない腰の痛み。暑い。暑い。
ここは花乙女の胃袋の中。胃液で容赦なく焼き焦がされるニユは、必死で身悶えしていた。
「うわー、美味しいっ。こんなに美味い人間久し振りでーす! ちょっとガタイは大きいですけど、やっぱ若い小娘はアテクシ好みでーす! ほんと、ジジイとかと違ってただ殺すだけじゃ勿体ないんですよねー。あ、帽子の小娘、待ってて下さーい! アテクシ、すぐこいつ消化しますんでー。それまでお付き合いの程、よろしくお願いしまーす!」
花怪物の、ガサガサした声が体内にも木霊している。
早く抜け出さなくては溶けてしまう、と思うのだが、あまりに窮屈で手も足も出ない。
「あ……」
そしてニユは気付く。ピンクのワンピースが、灼熱の海に溶かされ始めている事に。
暑さに意識が朦朧とする。抜け出さなくては、でも……。体がピリピリする。痛い。でもなんだか温かみが心地良くて。
「アタシは……」
こんな所で、死にたくない。
ケビンを、グリアムを、ルーマーを、生き返らす方法を知りたい。そして蘇らせて、彼らと話したい。
遅い来る眠気。それに必死で抗いながら、ニユは呟く。
「きっと……、モイザ、が」
そこで遂に意識が途切れた。
目を覚ましたニユが見上げると、すぐそこに帽子を被った赤毛の少女の顔があった。「……モイザ?」
「起きたのね。良か……、さあ、早く起き上がって頂戴」
半ば無理矢理に身を起こして周囲を見回すと、そこはアンダヤム山脈の高山の頂上であった。
「出られたんだ」
ニユはやっと、花乙女の腹の中から助け出されたのだと理解する。
「ありがとう、モイザ。貴方がいなかったらアタシきっと、ドロドロに溶けて死んでたよ」微笑し、心からの感謝を告げる。
だが、モイザは溜息をこぼし苦笑するだけで何も答えなかった。
立って全身を確かめてみるが、腰に少し傷を負ったのと、ワンピースやブーツが溶けただけ。痛みも引いていたし大丈夫そうなのでニユは心底安心する。
そして彼女は、ふともう一つの事に気が付いた。
先程、モイザの顔がすぐ上にあった理由だ。「もしかして……。モイザ、膝枕してくれたんだ」
それを言った途端、無表情だったモイザの顔に焦りの色が宿る。「ち、違うわよ。そんなのする訳、ないじゃないの。あんたは草に寝そべってたのよ」
「へえ、そうなんだ」それがモイザの照れ隠しに過ぎないと気付かず、思い違いだったのだろうとニユは引っ込む。それにモイザは安堵顔だ。
「うわっ」
そんな少女達へ突然、割って入った者がある。――白く優美な雌山羊、エジーだ。
柔らかな体を擦り寄せて来るエジーを、ニユは優しく撫でる。「エジーも心配してくれたんだね。ごめん、ありがとう」
しばらくそのまま戯れ、無事を祝い合った。
「ところで、これで第三の関門をクリアした筈だわ。……仙人は、どこかしら?」
モイザの言葉で我に返り、ニユはもう一度辺りに目を走らせる。
確かに、仙人の家らしき物は見当たらない。が、異様な物を見つけた。
それは、大きな穴である。
駆け寄り、覗いてみると、奥からうっすらと明かりが漏れていた。
「きっとここから、仙人の所へ行くんだよ」
「……そうでしょうね。ああ、服が泥だらけになりそうで、うち、嫌だわ」
明るく笑むニユに対し、モイザはあまり乗り気ではないようだが、「仕方ないわね」と言って穴の前に立ち、その中へ飛び込んだ。
モイザの姿が一瞬で見えなくなる。
それを見送ると、意を決してニユは跨ったエジーに命じる。「穴の中へ!」
そして、白山羊が大穴へと身を投げた。
滑り落ちながら、ニユは期待に胸を躍らせる。だって、だって。
もうすぐ、公爵との誓いが、そして自分自身への誓いが、果たせるかも知れないのだ。
そして穴を抜けた先、急に視界が開け、眩しさにニユは一瞬目を閉じずにはいられない。
「……おめでとう、第三の関門、クリアじゃな」
彼女の耳に届く、しわがれ声。
目を開けたニユは、思わず息を呑んだ。
部屋のようになった空間、その奥にテーブルがある。そしてそこに、黒髪混じりの白髪を伸ばし、藍色の瞳でこちらを見つめて来る老人が腰掛けていたのだ。
「ワシは仙人、クメロじゃ。女子達よ、よくぞ辿り着いた」
長い長い旅の末、やっと出会えた老人――仙人は、泥塗れの少女二人へと笑い掛けたのであった。