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望みへの旅路  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィ』一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞!
第一章 帰って来た屋敷、新たなる旅立ち
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二 二度目の旅立ち

 すっかり静かになった、真夜中。

 座ったままで仮眠を取っていたニユは、ふと目が覚めた。

 そろそろ良い頃合い、そこそこ眠れた。

「よし。……準備でもしよっか」

 腰掛けていたベッドから立ち上がり、長らくの旅を共にしていた背負い鞄を取って来る。

 そしてその中にお気に入りのピンクのワンピースを数着とパジャマを突っ込んだ。

「後は……」

 現金を大量に詰め込む。これは昼間、こっそり父の部屋から盗んで来た物だ。その額一億ゲバット。ゲバットはドッゼル王国の金の単位で、かなりの大金である。

 後は蝋燭式のランタンと、愛用の棍棒を入れ込む。棍棒は先端が飛び出して、完全には入り切らないがいつもの事だ。

 ――ニユが一体何をしているかと言えば、それはズバリ、旅出の準備である。

 今日の昼、帰って来たばかりではある。だがニユは、旅立たなければならない理由があった。

 ニユは机に向かい、紙に羽ペンを走らせる。前もそうだったが、今度も置き手紙をするのだ。

 その内容はこうである。

「  母さんと父さんへ


 ごめん。本当にごめん。

 アタシ、また旅に出る事にするよ。

 約束破って、ごめん。

 アタシだってこの屋敷にいたい。いたいけど、しなくちゃいけない事がある。

 夕食の時の話に付け加えるとするなら、こう。

 ケビン達を、一年以内に必ず生き返らせる。そう、公爵さんに誓ったんだ。

 だからアタシ、その方法を探しに行く。

 謝っても謝っても謝り足りないぐらい、ごめん。

 でもきっと、戻って来る。その時はみんなと一緒にね。

 さよなら。またね!


                               ニユより」

 胸が痛まない訳ではない。

 でも、決めたのだ。必ずケビンを、グリアムを、ルーマーを、蘇らせると。

 旅立ちが今夜である必要はない。本当は両親ともっとゆっくりしたい。でもこういう事は、早ければ早い方が良いのだ。

 飾り気のない自室を見回す。ここにも、またしばらく帰って来られないだろうと思いながら、だがニユはそんな思いを振り切って、部屋の外に出た。


 男爵邸二階の暗い廊下を、ランタンの明かりで照らして、足音を忍ばせ進む。

 もうすっかりみんな寝静まっていて、誰にも気付かれない。

 そして一階への階段を前にして、ニユはふと、一度目の旅立ちの時の事を思い出す。

 あの時は王子、ケビンと一緒に廊下を歩いてこの階段を降りようとした時、グリアムに見つかって相当慌てたものだ。

 でも話すうち同行する事になった。

 あの時もし、見つかっていなかったら彼女は死ななかったのではないか、と考えてニユは足を止めた。 

 しかしそれは愚かしい考えだ。

 彼女がいたからこそ、ニユは無事に魔人ドンを倒せた。グリアムを欠かしては決してなし得なかっただろう。

 何も、悔やむ事はない。

 今度の旅が無事に終われば、ニユはまた、グリアムと他愛ない事で笑い合える。

 だから今は、一時の別れでしかないのだ。

 今回の出立は、たった一人。

 一人旅になるかも知れない。それでもニユは、構わなかった。だって。

「みんな、見守ってくれてるもん」

 足を踏み出し、階段を降りる。一階の廊下を進み、裏門まで来た。

 ガラガラと音を立てて裏門を開けて外に出ると、ひんやりとした風が吹き付けて、ニユの赤いリボンが揺れた。

 振り返る。男爵邸とも再び、しばしのお別れだ。

「絶対、帰って来るから待っててね」

 今は眠っているだろう父母にそう笑い掛け、少女は馬小屋から白い山羊、エジーを引っ張り出して来て、跨がる。

 彼女が向かうのは、仙人の住む東の山。

 北の果ての島から大陸南部の男爵邸へと戻って来る間、ニユは人を生き返らす方法を求めて情報を集めているうち、こんな話を耳にした。

 このドッゼル王国には何でも知っている仙人がいる、と。

 東の最果ての山に居を構えるその仙人なら、もしかすると人間蘇生の方法すらも知っているのではないかという話だ。

 どうか仙人が知っていますようにと願いながら、深い夜の中、短い茶髪を靡かせる少女は東へと愛山羊を走らせ始める。

 ニユの第二の旅が、今、幕を開けた。

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