とりあえず、第10話 アイ ラブ、、、
愛ってなんだ?
それでは第10話、スタートです
目が覚める。
知らない天井だ。
どこだここは。
室内は明るい。
風を感じる。
扇風機が首を振りながら風を送ってくる。
少し頭を持ち上げて周りを見回す。
「あ、目が覚めましたか?良かった。救急車を呼ぼうかって思ってたんですよ」
茶色い作務衣のような制服をきた中年の男性の従業員が話し掛けてきた。
制服の胸部分には「あい らぶ 湯〰️」の文字。
状況は理解できたと思う。
だが、確認は必要だ。
「すいません、サウナで意識を失ってしまったのでしょうか?」
「ええ、そうですよ。サウナの扉の前で倒れている所を私が発見しましてね。まぁ、気を失ったのがサウナ室内でなくて良かったですけど。」
「あぁ、サウナから出た所で力尽きたんですか。
ご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません。」
「まぁ、言葉もしっかりしてるから、大丈夫だとおもいますけど、何かおかしいとおもったら、すぐに病院でお医者さんに相談してくださいね。ここでもう少し休憩してもらっても良いですし、戻って着替えるなりなんなりして下さい。」
「ありがとうございます。着替えてきます。あの、すいません。私と同じぐらいの時間にサウナに入っていたご老人が居たとおもうのですが、その方のほうは?」
「そんな方は見ていませんが、お知り合いのかたですか?」
「いえっ、ただ少し気になっただけで、知り合いという関係でもないです」
「そうですか、でもその人は倒れているあなたを放置してしまったのかな?薄情というか、何というか」
「いや、私も当時の状況はほとんど覚えていないので、一概にそうとも言えないと思います。私は着替えてきますので、これで失礼します。本当にありがとうございました。」
状況はよく理解できていないが、当時、俺がタオル一枚しか身に付けていなかったのは間違いない。
そして今は、館内着を着させられている。
つまりお着替えもしてもらったようだ。
中年男性が中年男性にお着替えをさせてしまったのだ。
人間としての尊厳は地に落ちたようだが、サウナを自力で脱出したのなら、サウニストとしての誇りはギリギリの所で守られたのかもしれない。
俺は恥ずかしさを抱え、そそくさと逃げるように脱衣所に向かった。
着替えてスーパー銭湯の外に出た。
地面は濡れているが、雨はもう上がったようだ。
ひどく惨めな気分だ。
雨は上がって星も見えているが、気分はどしゃ降りだ。
腹が空いている気もするが、あの惨劇を起こしてしまったスーパー銭湯で海鮮丼を前に「うわー、海の幸の宝石箱やぁ」とテンション爆上げは出来ない。
そこまでイカれた神経の持ち主ではない。
気分は最低だ、だれが今孔明だよ。
あえて言うなら、今曹豹だよ。
送迎バスも利用する気にならない。
あの惨劇を目撃した人が送迎バスを利用する可能性があるからだ。
家までタクシーだとワンメーターだし、短い距離は嫌がられそうだな。
今の俺は競馬で帰りの電車賃まですった競馬オヤジ以下の存在だ。歩いて帰るとしよう、虫けら以下の俺にはそんな仕打ちが必要だろう。
比較的交通量の多い道路沿いを歩く。
正直、この世界から消えてしまいたい。
昨日今日だけの話じゃない。
誰も俺の事を知らない土地にいって、今までの事を無かったことにして生きれたらなぁ。
ルールも法律もユルユル、そんなユートピアで暮らしたい。
経済的に発展してないほうが、その辺の縛りは強くない気がする。
その代わり、力がものをいう世界だ。
ちからこそパワーの世界だ。
うん、無理だな、俺がこのままで行っても一瞬で身ぐるみ剥がされて簀巻きコースだな。
世界的に感染症が蔓延しているらしい。
風邪のような症状だが、老人だと死に至る可能性もあるそうだ。
そのため、国を跨いだ移動は原則禁止されている。
感染症にかかっていないと証明できていても原則禁止なんだ。
人の移動を規制して世界各国でこの困難を乗り越えようと努力している。
俺の趣味は海外旅行だ。
長期の休みが取れて、懐具合が温かければ、海外旅行をしていた。
でも今は旅行なんて出来ない。
自分では、どうしようも出来ないんだ。
本音を言えば、老人が感染症で死んだって何にも困らないんだ。
今80歳近い老人の寿命が10年20年縮むだけの話だろ。
60まで生きれば十分だろ。信長さんに紅白歌合戦に出場してもらって敦盛でも舞ってもらいたいわ。
60歳以上の高齢者のために、俺の自由が奪われていくんだ。
そうして生き延びてもあいつらは、俺に感謝なんてしやしないんだ。
人命が尊いのは、分かる。
でも地球よりは重たくない筈なんだ。
文系のバカはそう言う事にしたいんだろうけど、理系の俺には全くもって理解できない。
重力は質量の大きな方へ引き寄せられる力だろ。
地球の重力に俺らが捕らえられているのはそういうことだろ。
考え込んで、下を向いて歩いていた。
横断歩道を歩いていると左側からトラックが近付いてきた。
ライトの光が眩しい。
顔を左に向けた時にはトラックとの距離はほとんど無かった。
ドン。
バシャ。
キキッー。
衝撃を受けた俺の身体ははね飛ばされ、ガードレールに一度当たって、道路沿いに植えられた植物に当たって止まった。
トラックと衝突した瞬間に俺の意識は途切れたと思う。
でもなぜか道路沿いに植えられた木の下には、アロハの姿が見えた気がしたんだ。
俺を見つめるあいつの顔は、どこか寂しそうな感じがしたんだ。
まさかのトラック。
これは今まで誰も試していない手法のはず。
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